ーーー 屋上。昼下り、四人は塔屋の縁に横並びに腰を下ろし、紙パックのコーヒーや、紅茶を嗜み、普段、見渡す事のない景色に、視線を溶かしていた。

「なんかさ。もしかして、今、俺たち、青春っぽい事してるんでは?」

「うわ! 口に出されたら、急にダサく感じで来た」

尚人の感傷に、大袈裟に身震いをして見せる神影。

「なんでだよ! ここで、こういう粋な事を言うのが、俺のキャラクターだろ?」

「え? ごめん。本当に、思った事無かった」

「嘘! 爽やかで、ムードメーカーで、実は繊細ってキャラクターだろ?」

「うん。だからごめん。良く分からない」

そんな二人の軽口も、もはや言の葉部の日常となっている。

「でもさ。より、深く、分かるようにはなったよね。尚人の事も、神影の事も」

ここ数ヶ月の活動を、夏の青空に浮かべる洸。

「まぁ、かっこいい話ではないけどな」

「そうだね。私も。恥ずかしい所を見せちゃったし」

二人は、ばつが悪そうに苦笑いを浮かべる。

「そうかしら?」

そこに、柔らかく吹く風に、気持ち良さげに目を閉じていた咲耶が割り込む。

「守るために作るキャラクターは、私にだってあるわ。正に今もね。私の病気はね、心臓が肥大化する物なの。余命宣告までされて、それでも生き永らえて、ここまでの日々に、不安が無いと言えば、そうじゃなかったわ。それを見せないように、隠すように、そうした結果、今の私が出来上がった。板について、剥がせないほどに。それでも、それでいいと思えるのは、こんな私でも、見てくれる人がいるからよ。それは、別にかっこ悪い事じゃない。愛すべき事よ」

普段の咲耶からは想像もできないほどの饒舌。その中身もまた、膿んだ傷跡を慰めるように、それでいて力強く三人に真っ直ぐに受け渡される。

「親との確執もそうね。私の母親も、とにかく私を甘やかし、何と言えばいいか、普通を生きてる実感が無かった。気を遣い合わず、心と心でぶつかって、柔い確執となって、そこから産まれる愛情だってある。私がこうして、高校に通うことを決めてたとき、初めてと言ってもいいほど、ぶつかり合ってね。それでも今は、私の意思を尊重してくれるようになった。愛から芽生えた確執だったら。それを溶かすのも同じく愛だと思うわ」

神影は、涙袋に小さな湖を作る。

「咲耶ちゃん! もう! なんて、いい子なの!!」

その瞬間、溜め込んだ涙を、一気に溢れ出させる神影。

「うわぁ!! ガチ泣きかよ!」

隣に座る尚人は、持っていた紙パックを落としそうになりながら、体を大きく使って、驚きを表現している。

「そうなんだよ! 良い子なんだよ!」

そんな尚人の逆隣。洸もまた、身を乗り出しながら、瞳を潤ませている。

「おいおい! マジかよ! お前も泣くのかよ! まぁ、これも、青春ってやつか……やつか……やつか……」

尚人はセルフエコーをかけて、起伏を演出する。

「やっぱり……冷めるから………やだぁ」

神影は、声を震わせながらも、すっかりと役割となった、尚人のツッコミを済ませる。

「なんか、言わなきゃ良かったと、後悔したわ。盛大にね」

そんな光景を、他人事のように眺めていた咲耶は、少し頬を、いつか掌で踊らせた、花びらのように、ほんのり赤みを帯びた、桃色に染めていた。