ーーー 調理室。4人は、立方体の目安箱と書かれた箱に、優に腕が入るほど、大きな穴の空いたボックスを囲んでいた。

このボックスは、予め、洸が千香から了承を得て、生徒会で使わなくなった、目安箱を拝借したものだった。

「よし! ルールは簡単! 今から、焼きそばを作ろうと思うんだけど、普通に作っちゃ面白くないでしょ? 高は、麺はマストとして、他の食材、調味料は、ランダムで、一人ずつ引いた物を使用する。ただ、それだけ。ちなみに、食材は、予め調達しておいたから。もちろん。当たりからハズレまでね!」

そう意気揚々とルール説明をする洸と、唐突に始まった、闇のクッキングに、置いてけぼりの三人。

「いや、楽しそうだけどさ。本当に大丈夫なのか? 食べれない程の異物を召喚した場合、スタッフが美味しく頂ける状況じゃないんだぞ?」

「ご心配には及ばないよ! そこは、言い出しっぺとして、僕が責任を持つから!」

「いやいや、どこに責任感を使ってんだよ」

「じゃあ、私が一番最初に引くね! 次は、咲耶ちゃん! そして、尚人、洸君の順番でいいよね?」

「おいおい! 何で乗り気なんだよ!!」

意外にも一番消極的なのは尚人で、神影はじめ、咲耶までも意に介さない様子だ。

「だぁ! くそ! やればいいんだろ! やれば! ミミズでも、蜘蛛でも、何でも来いや!」

そんな三人の様子から、逃げ場を失った尚人は、大袈裟に腹を括ってみせる。

「よし! じゃあ、引くよ!」

そうして、始まった食材選びは、神影がウインナーを、咲耶がピーマンを、尚人が玉ねぎと、なんともどっちつかずの結果で進んでいた。

そして、最後にくじを引くのは、言の葉部、部長であり、言い出しっぺの洸。

「頼む! 出来れば調味料! なお且つ、面白味のあるやつ!」

ここまで来れば、すっかり前のめりになっていた尚人は、両手を交わらせ、祈るようなポーズを取る。

「まぁ、任せてよ! ここまで来たら、無味ってのも悪くないでしょ!」

そんな、空威張りを携え、洸は利き手をボックスの中へと挿入する。

そして、指先に当たるいくつかのクジをスルーして、隅っこに転がるクジを摘んだ。

「これだ!!」

そう、勢いよく引き上げたそのクジを、間髪入れずに拡げる。

「おお! これは! 」

そして、書かれた文字を見て、そう感嘆をあげた。

ーーー 出来上がった、焼きそば(闇)を目の前に、皆が物言いたげな様子だった。

結局、最後に洸が引き当てた調味料のおかげで、真っ赤に染まったソレを、焼きそばと呼ぶものはいないであろう出来栄えだ。

「じゃあ、せーので食べようか。いただきます、からのパクって感じで」

洸の提案に、皆が頷く。

「よし!じゃあ行くよ! せーの!」

「いただきます」と四人の声が重なり、一斉に割り箸を口へ運ぶ。

全員が同じように咀嚼して、喉を通し、胃へ流し込んだ後、矢継ぎ早に洸、尚人、神影、咲耶の順に一言ずつ呟く。

「ナポリタンだ」

「ナポリタンだな」

「ナポリタンだね」

「ナポリタンね」