ーーー三人が会計へと向かう姿を見送り、尚人は一人店外へと踏み出した。

 家族連れや、友人や恋人と過ごすもの、誰もがとっておきを過ごしている最中、ふと尚人に視線を向ける男が二人。

「あれ、そうだよな?」

「ああ、間違いないだろ? 雰囲気は違うけど、顔はまんまだ」

その二つの影は、耳打ち会議を済ませて、尚人へ近づいていく。

「よう! 尚人! 久しぶりじゃん!」

明らかに染めたであろう茶髪に、同じように、雑誌からコピペしたかのようにセットした頭髪、流行りを詰め込んだかのような服装をした二人組を、怪訝そうに睨む尚人は、その人物が誰なのか理解した瞬間、引きつった笑みを浮かべた。

「庄司、正文」

「いやぁ〜、はじめは気づかなかったぞ。すっかり垢抜けちまってよ!」

庄司は、尚人の左肩に左手を乗せる。

「ま、まぁな」

「お前だけ、こっちの高校に進学したからな、こっちまで来る機会がないと、中々会えないな。ん? でも、実家から通ってるんだよな? だったら、会っていてもおかしくないのか?」

正文は、嫌味ったらしく、正文よりも身長の低い尚人を見下ろす。

「まぁ、そんなもんだろ」

「なんだよ〜、冷たくなっちまってよ。昔はあんなに純粋だったのに」

そんな庄司の言葉に、今にも殴り掛かりそうな勢いで、睨みつける尚人。

「ごめん! 尚! お待たせ………」

そこへ買い物を済ませた三人が現れる。尚人にはとっては、最悪なタイミングだった。

「あら? もしかして、お友達か? へぇ〜、お前に友達が出来るなんてね〜」

「おいおい。もうやめようぜ。どうせまた、裏切りの尚人君に後戻りするんだろうからな」

二人は顔を見合わせて、悪役の如く笑みを浮かべる。

「裏切り?」

洸は、尚人に似ても似つかないその言葉に、疑問を呈する。

「ああ。忠告しておくぜ、こいつはな、中学校の時に、親友の彼女をそそのかして、奪ったクソ野郎だったんだ。とはいっても、その彼女とも、それ以降、結局うまく行かなかったけどな。あはは! 根暗なぼっちくんがイキるから、そんなことになるんだよ!」

庄司は、耳障りな笑い声をあげて、そんな尚人の過去を残して、正文と共に、雑踏の中へ消えていく。

尚人は、両手で強く拳を作ると、肩を震わせる。

「尚……」

「わりぃ。今日はもう帰るわ。また、学校でな」

尚人は、一度も三人に振り向く事はなく、足下に視線を落とし込みながら、駅へと向かう。

三人は、その後ろ姿にかける言葉もなく、ただ、ただ見送る事しか出来なかった。

その後三人は、チェーンのコーヒーショップで買った飲み物を携え、休憩スペースに腰を落ち着かせていた。

「どう? 思う? さっきの話」

そこまで、ロクに口を開く事がなかった、三人の静寂を破ったのは、洸だった。

「う〜ん。裏切り者ね〜。どうも、信憑性のない話だと思うけど、でも………」

「尚の反応からすると、あの話が全て真実とは言えなくても、何かしらのわだかまりは、ありそうだよね」

口籠った神影の言葉を代弁するかのように、そう洸が続けた。

「どっちにしろ、私達には分からない事じゃない? 分からない事を悩んで、どうしようって言うわけ?」

しかし、そんな二人と打って変わって、あっさりとそう言い放つ咲耶。

「それはそうかもしれないけど、このままで言いとも思えないし」

それでも洸は煮え切れない様子だった。

「だったら、聞いてみればいいじゃない? 」

「聞くって。そんな、ストレートに聞けるはずないじゃないか。デリケートな話な訳だし」

「それでも、聞かなきゃ分からない事だってあるでしょ? それとも、あなた達は、そんなに遠慮しながら付き合ってきた仲だったの? そんな言葉ひとつで、崩れるような仲だったの? だとしたら、心配するだけ無意味じゃない?」

オブラートに包み込む事なく、真っ直ぐに放たれた咲耶のその言葉で、更に咲耶の言葉の説得力が増していた。

「そんな。確かに、まだ二年と少ししか経ってないけど、入学してから直ぐに話すようになって、ここまで、喧嘩一つなく、一緒に居たんだ」

「そうだね。そういう関係なんじゃないか? って噂になるくらいだもんね」

「それだけは、遺憾だけど」

神影のおどけた言葉に、小さく笑みを浮かべる洸。

「分かった。とりあえず、今回の件は一旦僕に預からせてくれないかな? まずは、尚の様子を見てから決めよう」

「うん! 了解! 部長さん!」

神影はサムズアップで答える。咲耶も一度小さく頷く事で、賛成の意を示した。