それぞれが、注文した商品を堪能したのち、4人は大きな問題に直面していた。

 「それで? これから、どうする?」

 神影が、口元を紙ナプキンで拭って、3人の顔色を伺う。

 時刻は14時。帰るには少しあどけない時間。

 「どうするって、この辺で遊べる所といえば、カラオケに、ゲーセンに、あとは、駅中のモールくらいだろ?」

 尚人が、アイスコーヒーの残りを一気に、ズズッと音を響かせて、ストローで吸い込む。

 「だから、聞いてるの!」

 「僕は、特にこれといって、咲耶は? 何かしたいことない?」

 そんな部長の一言に、居心地悪そうに視線を集められる咲耶。 
  
 「そうね。私は、どれも経験はないから、なんとも言えないわね。駅前に来るのだって、服を買いに来る時くらいだから」


 そんな男子にとっては何気ない返答に、イルミネーションを映したかのように、目を輝かせたのは神影だった。

 「ショッピング! いいじゃん! 行こうよ!」

 そう、言葉と体が一体化したように、咲耶の手を取った神影は、男子2人は始めらからいなかったかのように、気にも止めず、そそくさと喫茶店から出ていってしまう。

 その暫く、開閉されたドアの、綺麗な鈴の音に呆けたように顔を見合わせた2人は、シンクロした動きで、テーブルに置かれた伝票に目を落とす。

 「なるほど。なぁ、洸くんよ。男って、こういう金銭的な事になると、みみっちいと思われるのは、何でなんだろうな? 俺、別に金欠じゃないのに、葛藤してるんだぜ。払ったら負けって。でも、払わなかったら、それはそれで、何か廃る気がする」

 「よし! お会計済ませよ!」

 「え? え? 洸くん? 嘘! やっぱり俺が小さいだけってか?」

 何食わぬ顔で、4人分の会計を、尚人と分配しようとする洸に、懐の差を感じる尚人だった。

ーーーー「おい! 先に行くなよ!」

 店から出た2人は、まだ遠くない背中目掛けて小走りで駆け寄る。

 「あ、お金。いくらだった?」

 「ううん! いいよ!いいよ! こんくらい大したことないから!」

 2人と合流して直ぐに、財布を取り出そうと鞄を広げた咲耶の手を、洸が制する。

 「でも、悪いわ」

 「いいんだよ! こう言ってんだから、格好つけさせてやってくれよ」

 尚人が、洸の意図を汲み取ったものを、すんなりと口にする。

 「そういうのは、言わない約束でしょ? 一気になんか、ダサくなるじゃん」

 「そんな約束した覚えないね」

 「さぁ、こう言ってるし、咲耶さん、行きましょう!」

 「お前はもっと感謝しろ」

 意に介さない様子を見せる神影を、尚人は睨みつける。

 「ちっさ」

 「んだと? それは、俺が一番よく分かってるわ!」

 往来で鋭く視線を交わらせる尚人と神影。

 「まぁ、二人は置いといて、行こうか、咲耶」

 「え? ええ」

 これまでの高校生活の中で、遠くに感じていた光景が目の前で繰り広げられている事に、困惑しながらも、洸に促されるままに、咲耶はモールへと歩を進める。

ーーー休日ということで、モール内はやや混み合っている。

 お目当てのアパレルショップで、体に服を合わせながら、ショッピングを楽しむ女子二人。

 「なぁ洸くんよ。何で女の人って、こんなにも時間をかけて、ショッピングするんだろうな?」

 尚人は、場違い感に居心地の悪さを感じながら、隣で同じように、店内を一望していたはずの洸に声をかける。

 しかし、尚人が声をかけ、視線を移した時にはもう、隣に洸の姿は無かった。

 「う〜ん。咲耶には、白とか、明るめの色も似合うと思うけどな〜。春らしく、女の子らしく、ピンクもありだと思う!」

 「だよね〜! 咲耶さん。髪の毛も綺麗だし、肌も白くてスベスベだし、スタイルもかなりいいから、何でも着こなせると思うけど。逆にそうなると、着てほしい服が多すぎて、目移りしちゃうね〜」

 「そんな。あまり、派手なのは好かないわ。まぁ、白はいいかもしれないわね。それと………ピンクも……たまになら……」

 洸と神影の、熱のこもったプレゼンに、少し頬を染めながら、両手に薦められた服を携えて、交互に見やる咲耶。

 「やだぁ〜! 今の咲耶さん、なんか凄く可愛かった! もちろん! 普段も可愛いけどね!」

 絵に描いたような女子会の風景に、違和感なく溶け込む洸。そして、すっかり仲睦まじそうに服を選ぶ咲耶と神影。

 そんな光景を、呆気に取られたように、体を硬直させて眺める、マネキンのような尚人という図が完成する。