ーーー ヴィンテージモダンな店内は、暖色系の灯りも相まって、落ち着きと、温かみに包まれている。

初めて訪れた場所とはいえ、居心地の良さを感じながら、四人は、案内された四人用のテーブルに、男女に分かれて腰をおろす。

四人は、真ん中に広げたメニュー表に視線を落とす。

コーヒーや、ココア、紅茶などのドリンク類、カレーやオムライス、ナポリタン、ガレットなどの食事。クレープ、パフェ、ケーキ類などのデザート類など、馴染みのあるメニューが豊富な喫茶店だ。

「う~ん。迷うなぁ~」

神影は、穴が空きそうなほどメニューを凝視して、喉を唸らせている。

「僕は、決まったかな」

それと反するように、すんなりと注文を決めた洸は、お冷を口に含む。

それは、他の二人も同じらしく、直ぐに視線をメニューから外した。

神影はそれから五分ほど熟考してから、ようやくメニューを決めて、神影が呼んだ店員にそれぞれが注文をすると、まるで、大仕事を終えたかのように、神影は、ふぅとひと息つく。

「雰囲気のいい店だなぁ。それに、あのカウンターの人、いかにも、マスターって感じの人よな」

尚人は、失礼のない程度に、コーヒーを淹れる男性を見やる。

白髪の初老で、唇と鼻の間に、立派な髭を携え、やや垂れた目尻からは、温厚そうな人柄が垣間見られる。

「そんなこと言ったら、あんただって、軽薄そうに見えるよ。いい意味でね」

そんな尚人に、いつもの調子で神影が言い放つ。

「いい意味って、付け加えればいいってもんじゃないだろ? 気を使われてる感、丸出しで、逆に気を使うって意味でな」

「いやいや。最後の補足はいらないでしょ? 余計に、分かりにくくなってるから。理屈っぽい男は嫌われるよって意味でね」

「一般的ではそうかもだけどさ。こういう奴を、好いてくれる人も、一人二人はいるだろ。マイノリティ的な意味で」

そんな悪のりな会話を繰り返す尚人と神影に、我慢できずに、今度は洸も口を開く。

「あのさ、思ってたけど。二人って、中々相性いいよね? その、男女のパートナーとしての意味で」

「「それはない 」」

そんな洸の言葉は、秒で、ユニゾンした二人の声に否定される。

「あなた達。本当に、お気楽な人達ね」

そんな現状にあきれたように、深く息をつく咲耶。

そんな咲耶を、期待を込めたような瞳で見つめる三人。

咲耶は、そんな視線に怪訝そうにするも、再び大きくため息をつく。

「そんなに気楽に生きれたら、楽しいだろうなって意味よ」

そっぽを向きながら、流れに身を任せた咲耶の発言は、咲耶の想像通りとはいかず、三人の間に重々しい空気として具現化される。

「ちょっと。折角、乗ってあげたのに、その反応は、失礼じゃなくて? 」

「あ、うん。いや、色々と、驚いたってだけで………うん」

そんな的を得ない洸の迷い言葉から、その空気の理由を察する咲耶。

「言っておくけど、自虐ってのは、笑ってください。って意味だから。私のコレも、正直、無意識ではあったけど、笑ってくれて結構よ。変に気を使われる方が嫌なのよ。そのくらいの、無神経な関係性でいたの」

咲耶は、何食わぬ顔で最後に「いい意味で」と付け加える。

「っぷ!ぬわはっはっ!」

その瞬間、豪快な笑い声をあげたのは尚人だった。

落ち着いたBGMと、環境音だけの店内に響く笑い声は、誰の耳にも不快に届くことなく、驚いたように一旦視線を浴びせられるも、皆、寛容に受け流している。

目尻に涙を浮かべながら、ようやっと笑い声をフェードアウトさせた尚人は、冷水を煽る。

「いやぁ~。正直、ちゃんと話して来なかったから、咲耶が、どういう奴か不安だったけど、案外ノリがいいのな? おもしれー女って、こういう時こそ使うべきだと思ったわ」

その話のタイミングを見計らったかのように、店員が注文したドリンクをそれぞれの前に置いて、一礼して去っていく。

「でも。そうだよね。今日は、親睦会なんだから、互いの事を、より知るきっかけなんだもんね。うん。咲耶さんの気持ち、よく理解したよ! 互いに同性として、仲良くなっていけたらいいね!」

 「あなたって、なんだか、教室で見る人と、違う人みたいね」

 そんな咲耶の返答に、苦々しげな笑みを浮かべる神影。

 「まぁ、教室では委員長だし、多少は気を張っているのかもね」

 「そう。まぁ、人間なんて、何かしら繕って、表面を良くする生き物だし、私も含めてね。でも、ひとつ言えるなら、今のあなたの方が話しやすいわ。私はね」

 「咲耶さん……。ありがとう!凄く嬉しいわ!」

 「何でちょっと、口調が移ってたんだよ」

 そんな空気の読めない尚人の発言に、鋭い睨みで応答する神影。

 尚人は、その視線に怯んだように、引きつった笑みを浮かべ、誰にも聞こえないほど小さくため息をついた。