もしも恋人が、幽霊だったら。
 もしも恋人が、容姿だけ十八歳のままの八十歳だったら。
 もしも恋人が、この世界のすべてを操る力を持っていたら。
 
 それでも僕は恋人のことを愛おしいと想い続けられる。
 なんて、それは非現実的な話だと思っているから言えるセリフだ。
 少なくとも僕は、そんな綺麗な答えは出せない。
 幽霊だとわかった瞬間は悲しさに襲われてしまうし、この先一緒に長い時間を生きられないことがわかったら寂しい、この世界のすべてを操る力を持っているなんて恐ろしくて隣にいるだけで足がすくんでしまう。
 僕が臆病だからかもしれない、事実、僕は頼りがいのあるタイプではないし。
 
 ——「高校を卒業するまで、私を形だけの彼女にしてくれませんか」
 
 そう、僕たちのすべては嘘から始まった。
 よく言えば、二人だけの秘密だった。

 それなら、もしも僕の恋人が——だったら。

 これは、契約的に付き合った恋人が——だった僕が、その答えに辿り着く高校最後の夏の話だ。