白鬼の封印師 二

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変な女。
それがその子に抱いた第一印象だった。
ある日の朝、周りに誰もいないのを確認すれば、読みかけの本を手にそっと屋敷を抜け出した。仕切られた部屋の中、一人静かに過ごすだけの時間を送るより、外の世界は色んなことが知れて新鮮だ。
親はいるだろうが碌に会ったことはない。
物心ついた時から半ば軟禁生活を強いられてきた。
四方の格子に張られた複数の呪符。
施錠された頑丈な扉にかかる鍵。
成長するにつれ覚える違和感も、ここでは特別な存在だからと言い聞かせる周りの反応が嫌で嫌で仕方ない。時間通りにやって来る使用人は嫌にかしこまり、格子から覗く瞳は恐怖。自分に何を求めているのか、それに気付いた時、自分は自分として見てくれない世界にいつしか諦めを覚えた。
そんな時、本に出会った。
厳重な監視下の元、暇つぶしに本を読んでみたんだ。
外の世界があると知ったのもそれがきっかけ。
初めて知ったその日から、外の世界に憧れを抱いた。
本を読み漁り、口だけではない知識や教養も本では学ぶことができる。
元々、地頭は良い方で一回見れば大抵のことを習得できた。
自分は何者なのか。
その正体を探るべく、伝手を渡って情報をかき集め、慣れたら今度は自分の力で屋敷を抜け出すようになった。そうして見つけたのは都でも有名な図書館。そこは僕にとって現実を忘れられる憩いの場だった。

「いい加減にしなさいよ!!」

その日は涼しい木の上で昼寝をしていた。
下から聞こえてきた怒鳴り声で目を覚ます。
一人の女が声を荒げる姿にこれが「喧嘩」というものなのか考える。
せっかくの昼寝を妨害され、気分も悪くなったので追い払ってやれば、側にいた彼女からはお礼を言われる。

「ありがとう…」
「別に。昼寝の邪魔だっただけ」

お礼を言われたのは初めてだった。
純粋な目をした、綺麗なオーラの子。
不思議と周りからは鬼の気配…と、別の何かを感じる。
妖にしては妙に違和感あるそれに警戒してしまう。
距離を取れば、彼女が首を傾げて見てくるのでプイっと顔を逸らす。図書館に行きたいと後を着いてきたが、普段は滅多に話すこともしない僕にとって彼女との会話は不慣れ。自分は特に話すこともなく、彼女からの質問に頷くか相槌かだけして流した。そんな態度に彼女は怒ることもなくただニコニコと笑っていた。

(…悪くはないかも)

そう思う自分がいたことに内心驚いた。
いつもは表面上の付き合いしかしない。
周りの欲しい反応を知っている自分が、この時ばかりはありのままの自分を受け入れられたような気がした。読んでいた本を閉じれば息を吐く。待ち合わせの場所に彼女はまだ来なかった。

「…遅い」

ーーグプス、グプス!大変だよ!!

すると僕の元にはアヅチが勢いよく駆け込んでくる。

「何?そんな慌てて。僕もう随分と待ってたんだけど」

なかなか戻ってこない様子にイライラしていれば、焦った様子でアズチがビュンビュン飛び回る。

ーーしぐれがいなくなっちゃったんだ!!

「いない?だってずっと一緒だったんでしょ?」

グプスはそれにピクリと眉を動かした。

ーーそれが急に光が現れて。彼女を何処かに攫っちゃったんだ。アイツの仕業だよ!

アイツ?
アヅチはメラメラと怒ったようにさっきまでの出来事を話した。
全てを聞き終えたグプスは「ふ~ん…」と声を漏らす。
めんどくさい事になったものだ。
仕方なく席を立てば何も言わず図書館を後にする。

ーーグプス、しぐれは人間なんだ。鬼頭家の花嫁なんだよ
ーー彼女は鬼頭白夜の花嫁

「知ってる。何となくそんな気してたし」

ーーじゃあ早く鬼頭家に知らせないと!しぐれ攫われたって!

「…え、それ僕がやるの?」

それには盛大に顔を歪めてげんなりするグプス。
面倒ごとは請け負いたくない。
厄介事に巻き込まれるのだけは御免だ。

ーーグプスの他に誰がいるの⁈しぐれが攫われたんだよ?
ーーグプスは彼女と会えなくなっちゃってもいいの??

「会えないも何も…別に僕と彼女はそこまでの関係じゃ。それに僕、鬼頭家の連中は嫌いなんだ」

御三家だし。
めんどくさいし、、
そもそもそこまで助ける義理ないし…と渋る様子にアヅチはパチパチと火花を飛ばした。

ーーまたそんなこと言って!しぐれは友達でしょ?

「友達?誰が??」

ーーグプスとしぐれ

友達?
僕が?彼女と??
アズチの言葉に拍子抜けする。
考えたこともなかった。
友達なんて自分には無縁だと思っていたから。

ーーあ~あ~グプスのせいで、しぐれは帰ってこない。
ーー誰か鬼頭家に知らせてくれないかな~
ーー友達を見捨てるなんて、最低だ~

「ああもう!分かったよ!言えばいいんだろう?全く…なんでこうなるかな」

グプスは声を張り上げれば、今日一番の大きな溜息をついた。
どうしてこうなるかな…目を覆いたくなるも仕方がない。
今回ばかりは少しばかり手を貸してやろう。
急かすアズチを追って通りを走り抜けた。