鬼頭家当主として器に欠ける父親。
鬼頭家の行く末は不安視されていく。他に子供がいなかった鬼頭家は唯一鬼頭の血を引いた深夜に未来を一任し、加えて厳しく教育が施された。だが同時に見つかった持病の事実にまたもや鬼頭家は落胆した。
「後継者に持病の息子など…父は激怒し、私を産んだ母親は殺された。残された私は他に後継者がいなかったせいか殺されずには済んだ。幸運にも母親は名家の出。妖力も申し分ないとこきて鬼頭家との相性も悪くなかった。たが母親を目の前で斬殺されたこと、一人死んでいった花嫁のこと、私には花嫁を娶るということに強い恐怖心を抱いた」
深夜は当主としての器は大きかった。
その点、鬼頭家の為に花嫁を娶り後継者を作ることだけは疎く目を背けた。花嫁無くして邪気に対抗など不可能。鬼頭家当主に就任後も花嫁を娶ろうとしない深夜に周りは心配と落胆の声を上げ、鬼頭家は再び妖からの信頼を失っていく事態と化す。
「痺れを切らした父親の意向により、過去に一度、現世から花嫁が迎い入れられた。私と花嫁との間に子を作り、鬼頭家の媒体にせよと」
鬼頭家当主としての役目を果たすため、術師の花嫁と結婚をした。
でもそれは決して良い未来にはならなかった。
花嫁は深夜を拒み、深夜もまたそんな花嫁に子を作るだけの役目を与えたくはなかった。妖家の当主は術家の花嫁とのみ、子供を作ることが原則とされる。これは強い妖同士が子を産んだ場合、子は高確率で強く邪悪な邪気を生み出すとされ危険視されていたからだ。花嫁の血が半分流れる子であれば、強い妖力と邪気の耐性を併せ持つ。
「結局、私は花嫁との間に子を成さぬまま花嫁を分家へ送った。残された運命の中、邪気の強い鬼頭家より分家の方がよっぽどマシだと思わんか?私もまた、幼馴染である妖の彼女との間に子を設けた」
「それが…白夜様?」
「ああ」
時雨は深夜の話に黙って耳を傾けた。
そうしていると、段々と鬼頭家の生い立ちも把握できるようになってくる。鬼頭家当主の話を聞ける機会ももう残り僅かとなる。聞けるものは少しでも多く話を聞いておけるように。
「あの…白夜様はそのことをご存知なのですか?その…」
「私が側室の子であることは話している。だが本来の役目を放棄した意味までを奴が理解しているとは思えまい。何故なら当主を務める者に感情など不可能。命と隣り合わせの環境に情をかければ待つのは死のみ」
「で、ですが、、それだと花嫁に子を成す本来の役目に逆らった当主の意向は完全否定されるのでは?花嫁とは邪気を浄化して強い子孫を残す。そこに情けがないというなら白夜様が産まれることもなかった」
その問いかけに深夜はゆっくりと時雨を見る。
赤い血のような瞳が僅かに揺れる姿に時雨は冷や汗を垂らした。
殺気とは違う空気が周りを包み込んでいる。
「あ、あの、、申し訳ありません。失言致しました」
「…いやいい。それもそうだな…其方の言いたいことはごもっともだ。だからそんな怯えるな」
「…」
深夜は再度縁側に視線を戻す。
「望まぬ結婚をするほど心は腐ってはいない。少なくとも父親のようになりたくはない。自らの人生は自らの意志で決める。私の中には僅かにそんな気持ちがあった。妖にも多少の心はある。持病持ちと卑下され、信頼を無くし…それでも強く生きたいこの気持ちを否定される義理はない。術師を娶り家柄を強く維持する今までのやり方は、背景で同じく何かが犠牲となってるからこそ生まれたもの」
相手は妖でも唯一自分が愛した女。
守りたいものができた。
表向きの理不尽な心に蓋をしてでも本来の自分と向き合う選択を選んだ。結果的に息子が産まれ、一般常識を覆してでも信頼を得て名声を上げることを可能にした、自身もまた側室の子。
「私にもプライドはある。自分の守りたいものは自分が決める。それが私は誰かを心から愛し守ること。それだけだよ」
「(カ、カッコいい…)」
時雨は不覚にも感動してしまった。
普段は温厚な性格なのに言葉には強さと理念がある。
誰よりも鬼頭家を支えて、誰よりも真剣に物事と向き合う。
「分家に送った花嫁には申し訳ないが…それでもここにいるよりかは幾分かマシな人生だっただろう。白夜にはそういった人生を見つけ歩んで欲しい。常識を覆したアイツなりの生き方をな。母親を無くし、私がいなくなった先で寂しくないように」
だから敢えて話さないこともある。
それを理解して初めて成長と言えるから。
突き放すようで本当は愛している。
たった一人の自分の我が子を。
「母体が宿したのは過去もっとも恐れられた白鬼の妖。百目鬼神。またの名を百目鬼と呼ぶ。残酷なことに白鬼を地に下ろすには母体の妖力と命全てが引き換え」
「では白夜様のお母様が生まれて直ぐ亡くなられたのは、、」
「アイツは選ばねばならなかった。鬼神を今世に残すか、それとも私との余生を生きるか。迷うことなくアイツは子を選んだ。未来の隠世のため。アイツはアイツなりの愛を与えたのだ」
白夜は母親の存在を何も知らない。
知ればどんな顔をするだろう。
偉業を成し遂げた白鬼の生まれ変わりであるが、それとは引き換えに母親が死んだ。そんな話を白夜の父親である深夜は口が裂けても彼本人には話したくはなかった。
鬼頭家の行く末は不安視されていく。他に子供がいなかった鬼頭家は唯一鬼頭の血を引いた深夜に未来を一任し、加えて厳しく教育が施された。だが同時に見つかった持病の事実にまたもや鬼頭家は落胆した。
「後継者に持病の息子など…父は激怒し、私を産んだ母親は殺された。残された私は他に後継者がいなかったせいか殺されずには済んだ。幸運にも母親は名家の出。妖力も申し分ないとこきて鬼頭家との相性も悪くなかった。たが母親を目の前で斬殺されたこと、一人死んでいった花嫁のこと、私には花嫁を娶るということに強い恐怖心を抱いた」
深夜は当主としての器は大きかった。
その点、鬼頭家の為に花嫁を娶り後継者を作ることだけは疎く目を背けた。花嫁無くして邪気に対抗など不可能。鬼頭家当主に就任後も花嫁を娶ろうとしない深夜に周りは心配と落胆の声を上げ、鬼頭家は再び妖からの信頼を失っていく事態と化す。
「痺れを切らした父親の意向により、過去に一度、現世から花嫁が迎い入れられた。私と花嫁との間に子を作り、鬼頭家の媒体にせよと」
鬼頭家当主としての役目を果たすため、術師の花嫁と結婚をした。
でもそれは決して良い未来にはならなかった。
花嫁は深夜を拒み、深夜もまたそんな花嫁に子を作るだけの役目を与えたくはなかった。妖家の当主は術家の花嫁とのみ、子供を作ることが原則とされる。これは強い妖同士が子を産んだ場合、子は高確率で強く邪悪な邪気を生み出すとされ危険視されていたからだ。花嫁の血が半分流れる子であれば、強い妖力と邪気の耐性を併せ持つ。
「結局、私は花嫁との間に子を成さぬまま花嫁を分家へ送った。残された運命の中、邪気の強い鬼頭家より分家の方がよっぽどマシだと思わんか?私もまた、幼馴染である妖の彼女との間に子を設けた」
「それが…白夜様?」
「ああ」
時雨は深夜の話に黙って耳を傾けた。
そうしていると、段々と鬼頭家の生い立ちも把握できるようになってくる。鬼頭家当主の話を聞ける機会ももう残り僅かとなる。聞けるものは少しでも多く話を聞いておけるように。
「あの…白夜様はそのことをご存知なのですか?その…」
「私が側室の子であることは話している。だが本来の役目を放棄した意味までを奴が理解しているとは思えまい。何故なら当主を務める者に感情など不可能。命と隣り合わせの環境に情をかければ待つのは死のみ」
「で、ですが、、それだと花嫁に子を成す本来の役目に逆らった当主の意向は完全否定されるのでは?花嫁とは邪気を浄化して強い子孫を残す。そこに情けがないというなら白夜様が産まれることもなかった」
その問いかけに深夜はゆっくりと時雨を見る。
赤い血のような瞳が僅かに揺れる姿に時雨は冷や汗を垂らした。
殺気とは違う空気が周りを包み込んでいる。
「あ、あの、、申し訳ありません。失言致しました」
「…いやいい。それもそうだな…其方の言いたいことはごもっともだ。だからそんな怯えるな」
「…」
深夜は再度縁側に視線を戻す。
「望まぬ結婚をするほど心は腐ってはいない。少なくとも父親のようになりたくはない。自らの人生は自らの意志で決める。私の中には僅かにそんな気持ちがあった。妖にも多少の心はある。持病持ちと卑下され、信頼を無くし…それでも強く生きたいこの気持ちを否定される義理はない。術師を娶り家柄を強く維持する今までのやり方は、背景で同じく何かが犠牲となってるからこそ生まれたもの」
相手は妖でも唯一自分が愛した女。
守りたいものができた。
表向きの理不尽な心に蓋をしてでも本来の自分と向き合う選択を選んだ。結果的に息子が産まれ、一般常識を覆してでも信頼を得て名声を上げることを可能にした、自身もまた側室の子。
「私にもプライドはある。自分の守りたいものは自分が決める。それが私は誰かを心から愛し守ること。それだけだよ」
「(カ、カッコいい…)」
時雨は不覚にも感動してしまった。
普段は温厚な性格なのに言葉には強さと理念がある。
誰よりも鬼頭家を支えて、誰よりも真剣に物事と向き合う。
「分家に送った花嫁には申し訳ないが…それでもここにいるよりかは幾分かマシな人生だっただろう。白夜にはそういった人生を見つけ歩んで欲しい。常識を覆したアイツなりの生き方をな。母親を無くし、私がいなくなった先で寂しくないように」
だから敢えて話さないこともある。
それを理解して初めて成長と言えるから。
突き放すようで本当は愛している。
たった一人の自分の我が子を。
「母体が宿したのは過去もっとも恐れられた白鬼の妖。百目鬼神。またの名を百目鬼と呼ぶ。残酷なことに白鬼を地に下ろすには母体の妖力と命全てが引き換え」
「では白夜様のお母様が生まれて直ぐ亡くなられたのは、、」
「アイツは選ばねばならなかった。鬼神を今世に残すか、それとも私との余生を生きるか。迷うことなくアイツは子を選んだ。未来の隠世のため。アイツはアイツなりの愛を与えたのだ」
白夜は母親の存在を何も知らない。
知ればどんな顔をするだろう。
偉業を成し遂げた白鬼の生まれ変わりであるが、それとは引き換えに母親が死んだ。そんな話を白夜の父親である深夜は口が裂けても彼本人には話したくはなかった。



