先は長くない。
ご当主様本人が口にするにはあまりにも残酷染みた助長だ。
回帰への復興も見えず、命の灯が尽きるその日まで。
残り僅かとなった余生を生き抜くことしか出来ないと。
そういったニュアンスが隠されているような気がした。
そうであれば白夜様を心配する気持ちにも大いに納得がいく。
「…そこまでお体が?」
「はは、こんななりではとてもそうには見えぬだろ?」
深夜は笑いながら遠くを見つめた。
「だが私には生まれ持つ持病がある。百年は保てど、最近では体への重みが長引くばかりで一向に好かん。ならば体は限界に近いのだろう。逆に言えばここまで持ったのが奇跡なくらいだ」
年代的に見れば、二十代そこらでも決して可笑しくはない容姿だ。
美しく変幻をして若さを保っているせいか本来の姿が分からないが、それでも妖の百年は人間の百年とは違う。
普通に考えれば、ギリ生きられるかどうかさえ分からない私達にとっても、彼らにとっては短すぎるはずなのに。
「不思議に思ったことはないか?鬼頭家当主の身である私が何故、今の今まで現世から花嫁を娶ることをしなかったか」
「あ、」
そう言えば、三大妖家の当主ならば現世から花嫁を娶るのは必須条件だ。
妖家の力は強い。
それぞれの領土を支配するために自身の妖力を強め、邪気による支配を受けないためにも花嫁の力が必須。
妖の寿命は長く半永久持続だ。
問題が発生しない限りは当主の座も数百年は代替わりする必要もない。そう考えれば術家に見合い話が舞い込むのは数十年に一度で済む。
娶らないのであれば分家の家に送り込めばいい。
強い妖家を支えるためには強い分家の力が必要となるのだから。お香さんの時のように。
「白夜様が生まれたのも、ここ最近の出来事のようですね」
「そうだ。本来であれば私も現世から花嫁を娶り、子を持っていても可笑しくはないはずだった。だが不徳にも、私はこの百年で花嫁を現世から迎えたことは一度もなかった」
「…それはまた一体、」
「好いた女がおったのじゃ」
「!!」
ご当主様は何処か懐かしむかのように縁側の外へと顔を向けた。
気がつけば青龍さんの姿もない。
何処へ行ったのか視界を見渡せば、彼は案外直ぐに見つかった。下を見れば何処かふてくされて酷く落ち込んだ様子のミニ青龍。
知らぬ間に正座する私の上へと乗っかっていた。
顔色を伺うように何度もチラチラと上を向いてくるので、「怒ってないよ」と言うように優しく撫でてあげれば、彼は安心したのか目を閉じてしまった。
「彼女とは昔からの仲だった。私がまだ当主になり立ての頃、病の身では先も長くはないだろうと早々に花嫁を娶られそうになった。自分の子を成し、自身が死んだ時の後釜を作る目的が上には大きかったのだろうな。周りからの圧が酷く、私も手に負えないほどだった」
「…」
「花嫁の噂は聞いていた。かく言う私の母にあたる人物も術家の出だ」
「!」
それはご当主様の父親にあたる方が、現世の花嫁と結婚したということでいいんだよね?
まあでも、前の世代にはご当主様の父親がその役目を果たしていたのだから。
花嫁を現世から迎い入れたのは当然といえば当然か。
「だが私はその人の実の子ではない。父には側室もいたが相手は妖の女だった。私はそんな側室との間に生まれた子供だった」
ご当主様の父親には正妻と側室がいたらしい。
そして正妻には術師からの花嫁を。
側室にはご当主様の母親ともなる、妖の女性を娶ったということか。
「父は正妻の人間との間に子供を授からなかったと聞く。それは正妻の花嫁が鬼である妖の父を酷く拒み、忌み嫌った原因が背景にはあったのだ。後に知ったことだが、側室を設けたのはそういったリスクに対応できる代わりの母体が欲しかったのだろう」
ご当主様本人が口にするにはあまりにも残酷染みた助長だ。
回帰への復興も見えず、命の灯が尽きるその日まで。
残り僅かとなった余生を生き抜くことしか出来ないと。
そういったニュアンスが隠されているような気がした。
そうであれば白夜様を心配する気持ちにも大いに納得がいく。
「…そこまでお体が?」
「はは、こんななりではとてもそうには見えぬだろ?」
深夜は笑いながら遠くを見つめた。
「だが私には生まれ持つ持病がある。百年は保てど、最近では体への重みが長引くばかりで一向に好かん。ならば体は限界に近いのだろう。逆に言えばここまで持ったのが奇跡なくらいだ」
年代的に見れば、二十代そこらでも決して可笑しくはない容姿だ。
美しく変幻をして若さを保っているせいか本来の姿が分からないが、それでも妖の百年は人間の百年とは違う。
普通に考えれば、ギリ生きられるかどうかさえ分からない私達にとっても、彼らにとっては短すぎるはずなのに。
「不思議に思ったことはないか?鬼頭家当主の身である私が何故、今の今まで現世から花嫁を娶ることをしなかったか」
「あ、」
そう言えば、三大妖家の当主ならば現世から花嫁を娶るのは必須条件だ。
妖家の力は強い。
それぞれの領土を支配するために自身の妖力を強め、邪気による支配を受けないためにも花嫁の力が必須。
妖の寿命は長く半永久持続だ。
問題が発生しない限りは当主の座も数百年は代替わりする必要もない。そう考えれば術家に見合い話が舞い込むのは数十年に一度で済む。
娶らないのであれば分家の家に送り込めばいい。
強い妖家を支えるためには強い分家の力が必要となるのだから。お香さんの時のように。
「白夜様が生まれたのも、ここ最近の出来事のようですね」
「そうだ。本来であれば私も現世から花嫁を娶り、子を持っていても可笑しくはないはずだった。だが不徳にも、私はこの百年で花嫁を現世から迎えたことは一度もなかった」
「…それはまた一体、」
「好いた女がおったのじゃ」
「!!」
ご当主様は何処か懐かしむかのように縁側の外へと顔を向けた。
気がつけば青龍さんの姿もない。
何処へ行ったのか視界を見渡せば、彼は案外直ぐに見つかった。下を見れば何処かふてくされて酷く落ち込んだ様子のミニ青龍。
知らぬ間に正座する私の上へと乗っかっていた。
顔色を伺うように何度もチラチラと上を向いてくるので、「怒ってないよ」と言うように優しく撫でてあげれば、彼は安心したのか目を閉じてしまった。
「彼女とは昔からの仲だった。私がまだ当主になり立ての頃、病の身では先も長くはないだろうと早々に花嫁を娶られそうになった。自分の子を成し、自身が死んだ時の後釜を作る目的が上には大きかったのだろうな。周りからの圧が酷く、私も手に負えないほどだった」
「…」
「花嫁の噂は聞いていた。かく言う私の母にあたる人物も術家の出だ」
「!」
それはご当主様の父親にあたる方が、現世の花嫁と結婚したということでいいんだよね?
まあでも、前の世代にはご当主様の父親がその役目を果たしていたのだから。
花嫁を現世から迎い入れたのは当然といえば当然か。
「だが私はその人の実の子ではない。父には側室もいたが相手は妖の女だった。私はそんな側室との間に生まれた子供だった」
ご当主様の父親には正妻と側室がいたらしい。
そして正妻には術師からの花嫁を。
側室にはご当主様の母親ともなる、妖の女性を娶ったということか。
「父は正妻の人間との間に子供を授からなかったと聞く。それは正妻の花嫁が鬼である妖の父を酷く拒み、忌み嫌った原因が背景にはあったのだ。後に知ったことだが、側室を設けたのはそういったリスクに対応できる代わりの母体が欲しかったのだろう」