「望月さん、それだとムラが出来るから!」

文化祭が近付いてくると自習の時間が増える、その自習の時間を使って準備をすることになる。

本日の私の担当はお店の看板作り、教室の廊下側に置いた木の板に文字や絵を描いてペンキで色を塗る作業。

「え、塗り方違った!?普通に塗るんじゃなくて!?」

木の板を挟んで反対側にはジャージ姿の望月さんが水色のペンキを付けたハケを持っている。

珍しく髪を一つに結んで見慣れない姿で。

私も長い髪を結んでるしジャージを着ている、そうじゃないと動きにくいから。

「ペンキを塗る時は最初に広げるように塗って全体が塗り終わったら方向を合わせて跡を一定にするの、そしたら仕上がりがキレイだから」

「…そうなんだ、確かにこれだと方向ぐちゃぐちゃで見栄えがよくないね」

つい口を出してしまった。

望月さんは決して雑ではない、しっかり塗ってはいるんだけど…

「ごめん、不器用丸出しだよね」

たぶん、それ。

でも余計だったかもしれない、たかだか文化祭の模擬店の看板に…

「ありがとう、教えてくれて。そうやってやってみるね」

私が塗っているのを見ながら望月さんが右方向に合わせるように板の上でハケを動かした。
言い過ぎたかと思ったんだけど、よかったかな。

お店の看板は空に色とりどりの風船が飛んでるイラストにした。カラフル喫茶という名前の通りカラフルに、そしてポップで楽しそうな雰囲気になるように。

だから水色で全体を塗った後、風船を塗っていくんだけど…

「望月さん、そこはみ出てる!」

「あ、本当だ!ごめん、ハケの使い方が難しくてっ」

横に広くなっているハケは丸みを帯びた風船を塗るのにはちょっとコツがいる、もちろん私だってそんな慣れてる作業でもないけど。

「私そこ塗るから望月さんこっちの空塗ってもらえる?」

「ごめん…、全然役に立たなくて」

立ち上がって望月さんと場所を入れ替わった。ジャージの袖を捲り直してペンキの入った缶に入れてあったハケを持った。