僕と香月が付き合い始めてから、その噂が広く知れ渡るのにそう時間はかからなかった。

積極的に隠してはなかったとはいえ、正直ここまで広まってしまうとは思わなかった。そして予想はしていたが、祝福する声は少ない。

香月は「ちょっと言い寄られたのを本気にしたあさましい女」と悪口を言われ、僕も「鉢かづきとかいう化け物に呪われて気がおかしくなってしまった」と陰で噂されている。

僕は別に、自分が何と言おうが気にしないけれど、香月のことを悪く言われるのはつらい。


……そして、僕らの仲がとうとう母にまで知られてしまった。


「明日、放課後に学園でお茶会を開きます。中条家の息子の婚約者お披露目の場です。……翔、貴方も噂になっている恋人を必ず連れて参加しなさい」


ある日の朝、母は突然そんなことを言いだした。

その思惑は明白だった。

僕の三人の兄たちには、全員婚約者がいる。そしてその婚約者たちは皆、名家の令嬢たちばかりだ。
そんな令嬢たちと香月を、学園の生徒たちが大勢いる前でこれ見よがしに比較し、恥をかかせる。そして、僕に香月を諦めさせようとしているのだ。


「む、無理です。私にそんな……」


そして香月はやはり、僕から話を聞いて不安そうに何度も首を振った。


「私が恥をかくだけならいいんです。だけど……お兄様方の婚約者様と比べられなんてしたら、私を選んだ翔様まで悪く言われてしまいます」

「そんなこと気にする必要ないよ」

「だけど最悪の場合、翔様が中条家から絶縁なんて可能性もっ……!」


香月は声を荒げて立ち上がった。


「やっぱり私なんかが、貴方と結ばれていいはずがなかった。私が翔様の前から消える。それだけで全て解決です」

「香月!」