「何度も申しております。私みたいなのが、翔様の恋人になんて絶対なれません。貴方にふさわしい人はいくらでも……」
「僕は君がいい。初瀬香月がいい」
「でも……」
初瀬さんは口ごもって、何か言葉を探しているようだった。
やがて、いつもの美しい声で、いつもより弱々しく言った。
「不安、なのです」
「不安?」
「翔様はきっと、私のこの奇妙な容姿が面白くて興味を持っただけ。そんなもの、すぐに飽きてしまいます。……なのに私は、日に日に貴方に惹かれていってしまう」
初瀬さんは泣いているようだった。
走ったせいでまだ息が切れているだけかとも思ったが、頬のあたりを伝う涙が確かに見えた。
「私は普通じゃない。そんなことは自分が一番わかっています。誰かを好きになったって辛い思いをするだけ! なのに貴方はいつもそうやって……!」
彼女の声が途切れた。僕が無意識に初瀬さんのことを抱きしめていたからだ。
鉢が邪魔してできた距離がもどかしい。
「僕は本気で初瀬さんのことが好きだ。これからも絶対にその気持ちは変わらない」
「そんなこと……」
「信じられない? いいよ、信じられないなら、信じてもらえるまで何回でも何回でも繰り返すから」
初瀬さんは、黙ったまましばらく動かなかった。
だけどやがて、恐る恐る僕の手を握った。
彼女の綺麗な手は、近くで見ると荒れていた。初瀬さんのこれまでの辛い人生を、その手は物語っているかのようだった。
「信じて……みたいです……。本当は信じてみたいんです」
今まで告白を断れれすぎたせいで、受け入れてもらえたのだと気付くのにしばらく時間がかかった。
喜びが、遅れてふつふつと湧き上がってくる。
「香月!」
「ふえっ!? な、名前……」
「ああごめん。嬉しくて思わず。下の名前で呼ばれるのは嫌だった?」
「……いえ、翔様から呼ばれるなら、どんな呼び方でも嬉しい、です」
初心な反応の一つ一つがあまりに愛おしい。
彼女のこと、絶対に離したりするものか。そう心に誓った。