お茶会以来、僕と香月を取り巻く環境は180度変わった。

学校の皆はすっかり僕らのことを学園一の美男美女カップル扱いだし、僕から香月を引き離そうとしていた母も、今は早く正式に婚約しろとうるさいぐらいだ。

兄やその婚約者たちとの関係は心配だったが、香月の元からの控えめな性格が幸いし、そこそこ可愛がられているようだ。


そして今日。

僕は、香月と一緒に彼女の母親の墓参りに来ていた。


「翔様、付き合ってもらってすみません」

「良いんだ。僕も香月のお母さんにはきちんと挨拶したい。鉢のこと、お礼したいしね」


持参した花を供えて手を合わせる。

ちらりと隣を見ると、香月は静かに目を閉じながら、母に何かを伝えている様子だった。鉢が取れたことを報告しているのかもしれない。


「お母さん、私は幸せだよ。……また来るね」


最後にそう声に出して言って、香月は立ち上がった。

墓苑を後にし、もと来た道を歩いていく。その途中、香月が思い出したように言った。


「そういえば、昨日久しぶりにお父さんから連絡が来たんです」

「え、そうなの?」

「どうやら再婚相手とは別れたようで。何度も謝られました」


香月の父は、再婚相手から悪評を吹き込まれたせいで、香月のことを疎むようになっていた。

香月が家を出た後、その再婚相手が贅沢三昧で財産がみるみる減っていき、愛想を尽かして別れたことで目が覚めたらしい。


「今度また会いたいって言われました。……あの、翔様さえ良ければ、また一緒に来てもらえませんか?」

「もちろん。お父さんにも、『娘さんをください』って挨拶しないと」

「なっ……気が早いです! ていうか、お父さんに“も”ってことは、さっきお母さんのお墓で……」

「もちろん、『娘さんとは結婚を前提にお付き合いしています』って報告したよ」


香月は耳まで真っ赤になって、「もうっ」と頬を膨らませる。

鉢をかぶっていたときから、香月が魅力的なのは確かだった。
だけど、こうして表情豊かな彼女を見られるのは鉢が外れたおかげだ。


「香月」


名前を呼べば、きらきらと綺麗な瞳が僕を捉える。

それがたまらなく愛おしくて、僕はそっと彼女を抱きしめた。



-fin-