しゃがみこんで手に取ると、それは透き通るように美しい瑠璃色の宝石だった。

 「綺麗」

 ぽつん、ぽつん、ぽつん、ぽつん。
 瞬く間に、空からゆっくりと色とりどりの雨粒が降り注ぐ。
 きっとこれが、薫ばあちゃんの言っている宝石の雨なんだ。

 そうして宝石が積もる地面に、虹がかかった。私と薫ばあちゃんの足元を虹の色どりが染めていく。

 はっとして空を見上げると、虹は空からぐるりと大きな円を描いて地上に降り注いでいた。
 私たちを囲むように、虹の輪が広がっている。

 「虹が半円じゃなくて、輪っかになっているね」
 まるで飛行機の中から虹を見た時のように綺麗な輪。

 「そうだねえ。虹は、おひさまと反対の位置にかかるだろう。普通、おひさまが天にあるから半円になる」

 「うん」

 「だけど、この世界はおひさますら、私たちと平等なのさ。ほら、あそこ」

 薫ばあちゃんが指す方向を見ると、大きな太陽が地上でゆらゆらと揺れていた。

 「おひさまがあそこにあるから、虹が輪っかになって見えるのさ」

 嘘でしょう。こんなに近くに太陽が。

 「あっちにはお月さまもいる」
 私は、両手で口を抑えた。

 あたりを見まわすと、全ての美しいものたちが、私たちを取り囲んでいた。

 空も、虹も、太陽も、月も、星も、海も、山も、川も、花々も、動物たちも、人も、その全てがここにある。いつの間に。いつからここに?

 「気が付いたかい? 世界が沢山の色で彩られているだろう」

 そう。
 全ての美しいものがあるだけじゃない。全ての美しいものがここで、色づいていた。
 赤や橙や黄や緑といった色では形容しがたい、麗しい色。

 この世界にいる皆が願う思い思いの色が見えているのだよ、薫ばあちゃんはそう話した。

 足元の虹をそっと踏むと、文字通りの虹色がさざ波のように震えて混ざり合う。
 虹の波と共に、地面に降り注いだ宝石が天高く舞い踊った。

 「たしかにあるんだね。ここには永遠の……」

 そう言いかけた時、薫ばあちゃんが声を荒げた。

 「凪ちゃん、これ以上ここにいちゃだめだ。もうおうちに帰りなさい。目を瞑って」

 「どうして? どうしてなの?」
 薫ばあちゃんは、私の肩を掴んでぶんぶんと顔を横に振った。

 「この雨は、凪ちゃんを想って、悟くんと真理子ちゃんが泣いている雨なんだ」

 「え? お父さんとお母さん?」

 そう言った途端、薫ばあちゃんの声が遠く霞み、視界がだんだんと薄暗くなっていった。