その晩幹夫さんは、いつものようにお風呂に入った後、寝室で眠りに落ちた。

 私は扉越しに、すやすやと眠るその姿を横目で確認する。完全に眠っていることを確かめると、寝室へそっと足を踏み入れた。

 上から2番目の引き出し、奥の箱を開く。
 日記帳を掴んだ手が、やけに震える。

 居間に移動しようと顔を上げた時、信楽焼の狸と目が合った。
 ああ、良かった。背中を押してくれているんだ。

 私は、そっと1ページ目を開いた。


〈日記・津田 久史〉


「……誰?」

 聞いたことも見たことも無い名前である。しかし、記名欄には慣れた手つきでその4文字が記されていた。
 一体どういうことなのだろう。

 主人の名前は木田幹夫である。この日記は違う人のものなのだろうか。

 いや、しかし幹夫さんは確かに、枕横の棚、上から2番目の引き出し、奥の箱に日記をしまう。
私は知っている。毎日見ていたのだ。確かに、日記を書いた後、あの棚へしまう。
 間違いない。

 では、一体これは誰の日記なのだろう。

 私は不思議に思いながら、1頁目を開いた。