幹夫さんは今日も、ご飯粒一つ残さず食事を平らげた。
 私が食べ終わったお皿を片付け始めると、居間で日記をつけるのが日課だ。

 穏やかな顔で文字を書く姿。背中が少し曲がっている。

 そんな幹夫さんのつける日記。

 内容は気になるけれど、私は幹夫さんの領域に目を通したことは一度も無い。なぜなら、愛する者の持つ秘密を知って良いことは起きないというのが、持論だからだ。


 私たちは出会った頃、小さなことでも感性や趣向が異なっていた。
 幹夫さんの大好物は苺大福。……苺大福である。どうして大福に苺をつめるのか。別々に食べれば良いのではないか。どうしてもその意味を理解出来なかった私は、軽い気持ちで否定した。

 「どうして、そんな変わった食べ物が好きなのかしら。変なの」

 この発言をした後、2日ほど口をきいてくれなかったのは言うまでも無い。旗から見れば、些細なことかもしれない。
 しかし、長い夫婦生活の中で、この小さな割れ目は負えない痛手となって返ってくるのだ。