最初の印象が悪い相手というものは、一つの長所が見えた途端、どうしてこうも惹きつけられてしまうのだろう。

 減点から始まった幹夫さんとの関係は、加点を続ける関係に変わっていった。こうして心を開くようになった私たちは、仕事ともプライベートとも言えぬ食事を重ねた。高級料理店から居酒屋までさまざまな店に足を運ぶ私たちは、自然と手を繋ぐようになった。

 幹夫さんは、食事のマナーをしっかりと携えている人だった。私が常日頃考えていた、ここだけは男の人に妥協出来ないという店員さんへの態度も、申し分の無いものだった。
 つまり、知れば知るほど、幹夫さんの虜になっていったのである。

 付き合っているともいないとも言えぬその関係は暫く続いたが、とある中華料理店の帰り道、繋いでいる手がいつもより熱く汗ばんでいるのを感じた。
 「どうしたの」と聞く私に、「結婚しよう」と幹夫さんは小さく呟いた。
 突然の告白に対する嬉しさと驚き、そして汗ばむ幹夫さんの可愛さに、思わず笑ってしまったことが懐かしい。

 それからの結婚生活は、幸せな時間に包まれた。
 
 男は釣った魚に餌をやらない。どこかでこんな言葉を耳にしたことがあるが、幹夫さんは釣った魚にこそ餌を与え続ける、そんな人だった。