自転車をかっ飛ばして図書館に着くと、自動ドアの前に、雪がいた。

 俺を見るなり「もう来てくれないかと思った。でもそうよね、来るよね、運命だもんね。良かった」ぼそぼそと呟いて、「来てくれてありがと」と、はにかんで頬を赤らめた。

「昨日はごめん。熱が出たから」
「え〜大丈夫?」

 眉毛をハの字にした雪が、俺の頬を触る。今日も外は暑いのに、手はひんやりと冷たかった。

「もう下がったから大丈夫。ってか、熱って言ったら普通触るの額じゃね?」

 早鐘を打つ鼓動をかき消すように笑って突っ込むと、雪は「たしかにぃ。もう嫌だぁ」と語尾を小文字で伸ばしながら笑った。

 「一昨日の続き、話そっか」

 そうして俺たちは、児童文学のコーナーにある丸椅子に向かった。

 「どうしていつも児童文学のコーナーなの?」

 「ここなら声を出しても平気でしょ。それに、ファンタジーな話をしても、子供たちは怪しんでこない」
 雪は左右を見回して、自分の言葉にうんうんと頷く。

 「ファンタジーな話って?」
 俺が聞くと、顔の前で人差し指を立て、しっーと言う。ここなら声を出しても平気なんじゃなかったっけ。

 「驚かないで聞いてね。私、今から舜にファンタジーな話をするから。現実に起こってることなんだけど、ファンタジーな話なの」

 なんか矛盾してるね、と言ってくすくすと笑う。

 「実は私、ソウゾウの世界に飛んでいけるの」

 ソウゾウの世界、と言われ、それが想像の世界のことだと気が付くまでに数秒かかった。
 
 「どういうこと?」
 
 すると、それまでにこにことしていた雪が、真剣な顔をした。