俺は本当に、雪の妖精を見たのかもしれない。

 その夜、俺は熱を出した。

 丸一日寝込んだ結果、夏野菜のカレーうどんを食べることは無かった。
 2日目の朝に熱は下がったけれど、なんだかまだ頭がぼうっとする。

 熱が下がったと喜ぶ母さんが部屋に持ってきた炭酸ジュースも、特別美味しく感じなかった。
 いつもなら大好きなのに。

 雪は一昨日、「また明日、同じ場所で待ってるね」と言っていた。
 昨日、同じ場所で雪が俺を待っていたとしたら、どれ位待っただろう。
 連絡先くらい交換しておけば良かったと後悔してももう遅い。
 いつまでも現れない俺に落胆しただろうか。
 怒っただろうか。
 いや、あの時のように泣いたかもしれない。
 だとしたら謝りたい。

 今、時計の針は12時ちょうどに重なっている。行ったところで雪がいる確証は無いけれど、図書館に行きたい。

 パジャマから着替えてリビングに向かった。

 母さんから促される前に、頭から日焼け止めスプレーを振りかける。
 それなのに、
 「ちょっと舜、体にかけないと意味ないでしょ、どこ行くの、病み上がりなんだから早めに帰ってくるのよ」

 1個クリアしても、また1個、それをクリアしてもきっとまた1個、母さんの小言は無限に続くらしい。

 母さんのそれは今に始まったことじゃないのに、この所、むしゃくしゃ堪らない気持ちになる。
 
 俺は頭を掻きむしったあと、日焼け止めスプレーをソファに投げ捨て、家を飛び出した。