図書館に入ると、雪は館内地図を見て児童文学のコーナーへ向かった。
 フリースペースに並ぶ丸椅子に腰掛けると、ぱっと手を離す。ここ座って、と隣の椅子を指差した。

 手に付いた俺の汗を拭うだろうと横目に観察したけれど、そんな俺の心配をよそに、というか何事も無かったかのように、両手で頬杖をついた。

 「じゃあ、まずは名前教えて」

 少し低い位置から上目遣いで俺を見上げる。頬杖のせいか、両頬の口角がくいっと上がっている。

 「あ、宮坂 舜」
 聞かれるがままに答える。

 「舜くんか。舜くん。舜くんねえ。なるほどね」

 雪は、俺の名前を連呼しながら天井を見上げて足を伸ばした。
 かと思えば、宮坂ね、宮坂、宮坂かあ、と苗字まで連呼して、「雪」と言った。

 「パパとママが出会ったのは、初雪が降った日だったんだって。ちらちらちらって、白くてふわふわの粉雪」

 雪は顔の前で両手にオーケーマークを作り、ちらちらと動かしながら下におろした。

「パパが『あれ? 遠くにたおやかな雪の妖精がいるな?』って思ったら、ママだったみたい。運命ってほんとうにあるんだよね」

 たおやかな妖精だってさ、そう呟いてくすくすと笑った。