「だって佐倉は今、昏睡状態だろう。目を覚まさないって、ご家族から聞いたぞ」
 
 ・・・・・・は?  今、何て言った?
 「ゆ、雪が昏睡状態?」

 「そうか・・・・・・。下の名前で呼ぶほど仲が良かったのか」

 俺を取り囲むすべての音が、しーんと静まり返る。

 雪は、たしかに車の事故にあったと話していた。
 そして、家族全員の意識が戻らないままだ、とも。
 しかし、雪は助かっているはずだ。

 けれど、先生が今ここで嘘をつくとは思えない。

 「お見舞いに行ってあげてくれ。佐倉は、駅前の門倉総合病院にいる」

 オブラートに包まれたような音の世界に、先生の声が小さく響く。
 
 そうだ。
 雪は昨日、ベッドの上にいると言っていた。

 ・・・・・・ベッドの上? どこの?

 「ちょっと先生、ごめん。俺、行ってくる」
 「おう。頼んだぞ」

 俺は、停めたばかりの自転車にまたがり、音の聞こえない坂道を全力で駆け抜けた。