次の朝。俺は、自転車をかっ飛ばして門倉第一に向かった。
 
 昨晩のハンバーグは喉を通らなかった。炭酸ジュースも味がしない。ゲームにもろくに集中できない。
 というか、なんだかずっと脈が速くて気持ちが悪い。でも、具合が悪い訳ではない。はじめて味わう感覚だった。

 「もしかして舜か! 夏休みに母校訪問とは、珍しいことがあるもんだ。天地がひっくり返るか?」

 校門の前で箒をはいていた鈴木先生が、げらげらと笑いながら手を振ってくる。中学3年の時の担任だ。

 なんだ、雪じゃないのかよ。というか、どこにも見当たらないな。時間は合ってるはずだけど。

 俺はキキィーという音を鳴らして自転車を停めた。
 「先生。中3の佐倉、見ませんでした?」
 「佐倉?」
 先生は、なぜか目を丸くした。
 「佐倉って、佐倉 雪のことか?」

 「あーそうです。下の名前、良く知らないけど、多分、雪だったかな。そんな気もする。うん、雪だったような」
 夏の終わり、何度も何度も考えた雪の名。
 こっぱずかしくて、悟られないよう、俺は知らないふりをした。

 「舜、佐倉と知り合いだったのか・・・・・・」
 「知り合いっていうか、まあ少し話す程度なんすけど」

 先生は「そうかそうか」と小声で頷いたあと、腕を組んだ。

 「そうしたら、夏休みに起きた車の事故のことは・・・・・・知っているか?」
 「まあ、はい。本人から聞きました」

 「本人?! 本人から? どうやって?」
 先生は左手を口に当てて目を丸くし、大声を張り上げた。

 「えっどうして驚くんすか?」

 俺がそう尋ねると、「大声を出してすまない」と言って咳払いをした。