俺がはじめて雪を見たのは、夏の終わりの金曜だった。

 「あ〜。あと3日で夏休み終わりかよお」

 高校1年の夏。 
 台風が過ぎ去った快晴の正午。
 もう8月の終わりだと言うのに、外の気温は33℃。残暑に注意してと、天気予報の姉ちゃんがテレビの中で言っていた。

 その日の昼飯は、2日目のカレーだった。
 母さんは、鍋を温め直しながら「晴れた暑い日は熱々のカレーに限るわよね」と声を張り上げる。

 いやいや、カレーのメイン日って昨日だったじゃんか。
 むしろ台風だったし。雨だったし。
 まあ、晴れでも雨でも曇りでも、カレーライスに罪はない。あの美味さは1年中変わらない。変わらないから、別にいっか。

 食卓に並べられた2日目のカレーは、一回り小さくなったジャガイモに、にんじんはかろうじて見つけられたけれど、玉ねぎは跡形も無くなっていた。

 その代わり、ルーの上に半分に切られた茄子と2本のオクラが乗っていた。
 「素揚げした夏野菜よ、夏バテ防止策ね 」と母さんが聞いてもいない答えを言いながら、俺のコップに麦茶を注ぐ。
 
 明日はおそらく夏野菜のカレー、うどんだろう。

 2日目のカレーを食べ終えた俺は、母さんから促された日焼け止めスプレーを頭から振りかけ、家を飛び出た。

 照り付ける日差しで脳天が焦げそうになる。

 自転車に跨り、立ち漕ぎで市民図書館へ向かった。

 目的は、戦国時代の伝記。12人待ちの予約を待つこと2ヶ月。俺の番が回ってきた待望の日……から1週間目だ。
 予約の取り置きが出来る最終日。

 それなのに、まさか予約したことすら、すっかり忘れて帰ることになるなんて。