「今日も遅くなっちゃった」
ちょうど部活が終わり、今は家に帰っている途中。時刻は20時を少し過ぎた頃。遅くなる時は親が迎えに来てくれるんだけど、今日はお母さんもお父さんもあいにく仕事。
家までの帰り道。夜になると一通りも少なく、一人で歩くには少し怖い。でも、それと同時に夜の景色を楽しみながら歩けるのでワクワクしていた。同じ道なのに、昼とは全く違う景色に見える。
「今日は雲で隠れて月が見えないなぁ」
小さい頃から月を見るのが好きだった。三日月、半月、満月、毎日色んな形になる。今日はどんな形かな? なんて思いながら、空を見上げる。月は明るいから、まるで夜の街を照らしてるみたいで、なんだかロマンチックじゃない?
今日は天気が悪いわけではないけれど、月は雲に隠れて見えない。月が好きな私としては残念で仕方がない。……と思っていた矢先、
「……っ!眩しっ……!!」
急に月が現れたと思った瞬間、その月はとてつもない輝きを放っていて、目を開けるのがやっとだった。長く目を開けることはできない。まるで太陽を見ているみたいだ。月って、こんなに眩しいものだったっけ? その輝きはすぐにおさまり、私は再び空を見上げた。
「青い、月……?」
普段見ている月ではない。私の目の前には青い月がたしかに存在した。これは夢なんじゃないの?と疑うほど不思議な光景だった。
「早く家に帰らないと!」
空を見上げたまま、立ち尽くしていた私はふと我に帰る。
「え? ちょっと待って……」
時間を見ようとスマホを見ると、「8月32日」と表示されていた。しかも、時間が写し出されていない。今日は8月31日。8月最後の日。8月32日なんていう日付は、そもそも存在しない。
これは一体どういうこと? 親に連絡しようにも、スマホが8月32日と表示されたままで、それ以外、何も出来ない私は空を見上げた。やはり、まだ青い月のままだ。
「あ、れ?」
視線を戻すと、目の前には青い街灯がいくつも並んでいる。ここの街灯は青い街灯ではないし、数も少ない。だけど今はかなりの数だ。違和感を覚えつつも私はそのまま真っ直ぐ歩くことにした。
まだにわかに信じがたい現実が目の前にはある。けど、恐怖よりも好奇心のほうが強かった。
多分、きっと....このまま歩いたとしても、家には着かない気がする。なんとなくそう感じていた。
暫く歩いていくと、道が三つに分かれていた。おかしい……。普通なら二つに道が分かれていて、右に進めば家に着くはずなのに。私は見知らぬ場所に迷いこんでしまったようだ。
私は真ん中の道を選び、歩いた。普通なら右に行くところだが、どのみち家には着きそうにないし、たまには冒険も悪くないだろう。
すると、何か人影らしきものが見えた。体格からして男性だろう。
「あれ、葉月さん?」
「秋月くん?」
そこに居たのは、中学時代の友達、秋月月光(あきづき げっこう)君だった。少し変わった名前だけど、今時らしい名前。それに名前に月が2つも入っていて、私は好きだ。だから私から声をかけ仲良くなった。だけど、高校が別になってからは連絡をほとんど取っていなかった。なんでも、高校は今の場所からかなり遠いため一人暮らしを始めたとか聞いた気がする。
因みに私は葉月紬(はづき つむぎ)。名字に月はついてるものの、名前は至って普通。みんなは女の子らしくて可愛い名前って言ってくれるけど、せっかくなら月が入ってる名前が良かった。でも、この名前も親が一生懸命考えてつけた名前だから気に入っている。
「秋月くん、どうしてここに?」
「葉月さんこそ、どうしてここに? 僕は中学時代の友達と会ってたんだ。その帰り道、ふと空を見上げたら月が急に輝き出して。スマホを見ると8月32日って表示されてて。月だって青くなってるし、信じられる?」
「私は部活の帰りに秋月くんと同じようにここに迷い込んだの。って、私も同じだったから信じるよ。ていうか久しぶり!」
こんな状況だけど、私は久々の再会を喜んだ。
「久しぶり。葉月さん、相変わらず元気だね」
「そりゃあ元気だよ! 高校から入ったバドミントン部も楽しいし! 秋月君は……なんか変わった?」
「そう、かな?」
中学時代の秋月君は今の私のようにとても明るい男の子だった。しかし、今ではなんだか大人しい感じがする。高校生になったから落ち着いたのかな? って思ってたんだけど……。
「それに顔色悪いよ。秋月君、大丈夫?」
「もうすぐ時間なのかも……」
「時間って、なんの?」
秋月君は唐突に訳のわからないことを言い出した。もうすぐ時間って、どういう意味だろう?
「葉月さん。君に会えたのはとても嬉しい。けど時間もないから要件だけ話すね」
「う、うん」
秋月君の様子は、まさに切羽詰まった状態に見えた。
「葉月さん、よく聞いて。君の家がこのまま真っ直ぐなら進んで。もし違っていたら、すぐに戻って、いつも家に帰ってる道を歩くんだ。……わかった? それと、僕に会ったことは誰にも話しちゃ駄目だよ。もちろん家族にも。
それと、この青いバラを君にあげる。そして、この青いバラを家に着くまで絶対離さないこと。このバラはきっと君のタイムリミットを少しだけ止めてくれるはずだから。さぁ、はやく行って!」
「え、ちょっとっ……!」
秋月君は青いバラを私に渡して、まっすぐ歩いて行った私は来た道を戻り、三つの分かれ道に着き、いつも通り、家に帰る右の道を進んだ。もちろん秋月君に言われた通り、青いバラは持ったまま。すると、無事に家に着くことが出来た。
☆ ☆ ☆
「た、ただいま~」
「紬!? あんた、今までどこ行ってたの!?
凄く心配したんだからっ……」
「お、お母さん? あれ? 仕事は?」
「何言ってるの? もう深夜の一時過ぎよ。貴方がなかなか帰って来ないから警察にも連絡したんだから。でも、無事で本当に良かったわ」
「えぇ!?」
スマホを見ると、九月一日、一時五分と表示されていた。それにかたまっていたスマホも普通に動いている。
「どこも怪我してないわね?」
「うん……」
「それならいいのよ。おかえりなさい」
「ただいま。お母さん」
私は泣きながら抱きついてくるお母さんを見て、こっちまで思わず泣きそうになった。こんなにも心配をかけていたなんて。私は自分まで泣きそうだったので話題を変えた。
「部活の帰り道、青い月を見たの」
「今日は曇りで月なんか見えなかったわよ」
「でも、そのあとに月が光を放って青い月にならなかった?」
「そんなことはなかったわよ。それより、その青いバラはどうしたの?」
「この青いバラはね?」
私はふと思い出した。秋月君の言葉を……。
「部活の帰りに花屋に寄ってね? 珍しい色のバラだなぁーって思って、自分で買ったの! その後に本屋さんやゲームセンター寄ってたら、帰りが遅くなっちゃって〜」
私は、秋月君に触れないようにお母さんに嘘をついた。
「夜遅くに本屋とかゲームセンターに行かないの!危ないでしょ!? ほんとに心配したんだからね!?」
「ごめんなさいお母さん。これからは部活が終わったらすぐ帰ってくるから」
「そうしなさいね」
「はーい」
私は青いバラを持ったまま自分の部屋に入った。
「なんだか今日は不思議な夜だったなぁ……」
ふと空を見上げると、月は雲に隠れて見えない。ほんとうにお母さんの言う通りだった。じゃあ私が見た、あの青い月は一体? 明日、秋月君に今日のことメールしてみよう。でも、最後に秋月君が言っていたタイムリミットってなんだったんだろう。私は睡魔に負け、そのまま意識を手放した
☆ ☆ ☆
『次のニュースです』
「おはよう。お母さん」
「ねぇ、紬。中学時代に仲の良かった秋月君っていたわよね?」
「う、うん」
お母さんの顔色が悪い。私は嫌な予感がした。
「……昨日の夜八時頃に隣町で殺されたらしいわ。なんでも中学時代の友達と会ってたみたいで、その帰りに」
「う、そ……」
「しかも犯人は見つかってないらしいの」
「……」
お母さんが何か言っている。けど、私の耳には何も入ってこない。
これは夢? それとも現実?ふと秋月君の言葉を思い出した。タイムリミットと言っていた。それに道が間違っていたら、この道を戻って、いつも自分が帰る方向に進めって。もし、あのとき、そのまま違う道を進んでいたら、私はどうなっていたの?
きっと、この青いバラに守られたんだ。ありがとう、秋月君。でも、どうして、私なんかを助けたの? これを秋月君が使えば、助かったんじゃないの?
『僕は君のことが好きだから。どのみち僕はタイムリミットが過ぎたから家に帰ることは出来なかった。でも君が無事に家に着けたみたいで良かった』
「秋月君!?」
「ちょ、紬。何を言ってるの?」
「今、秋月君の声が聞こえたの!」
「紬、さっきのニュースを見たでしょ? 悲しいのはわかるけど、でも……」
「そうだ! あの青いバラっ……!」
「紬! 学校は!?」
「ちょっと待って!」
私は二階まで一気にかけあがり、青いバラを手にとった。
「秋月君。私、私もずっと貴方のことが好きだった……。だけど別々の学校になったから、自然と離れちゃって。本当はメールも電話もしたかった。でも、高校生になって急に秋月君が変わってたらどうしようって思ったり、彼女でも出来てたらなんて思ったら、気付いたら半年が経ってて。久々に再会したって思ったら秋月君死んじゃうんだもん。私、悲しくて……。でも、好きなのはホントだから」
私は秋月君に貰った青いバラに本音をぶつけた。……返事がないとわかっていても。
『僕も同じこと考えてた。葉月さんに彼氏でも出来てたら、なんて。だって、葉月さん可愛いから』
「あき、づき君? どこにいるの!?」
秋月君の声が聞こえる。でも、どこだろ? わからない。
『……ここだよ、葉月さん』
「え……?」
私は青いバラをジッと見つめた。
『こんな姿になっちゃったけど、これからは僕が守るから』
秋月君は青いバラになっていた。私にはわかる。これが秋月君だということが。あのとき、秋月君の顔色が悪かったのは、きっと自分の命がもう僅かというのを知っていたんだ。
「ねぇ、秋月君を殺した犯人は誰なの!? 私が秋月君の仇をうつから!」
『葉月さん、落ち着いて。……犯人は人間じゃない。それに誰にも殺すことは出来ないよ。ただ、誰もがソレを一度は見たことある。一度じゃないね。何度も、何百回も』
「犯人は人間じゃ、ない? それに誰もが見たことあるってなに?」
『もう考えなくていい。これ以上考えると、ソレがわかってしまうから』
「うん……。わかった」
秋月君のその言葉はすごく重く感じた。
私は話題を変えるように、この言葉を言った。秋月君にもう一度会ったら伝えたいって思っていた。
「秋月君。助けてくれてありがとう。……それと、おかえりなさい」
『ただいま。葉月さん』
秋月君は、もう“人”ではなくなってしまったけれど、そこにちゃんといる。私の大好きな人。これからも、ずっと一緒だよ……。
〜完〜
ちょうど部活が終わり、今は家に帰っている途中。時刻は20時を少し過ぎた頃。遅くなる時は親が迎えに来てくれるんだけど、今日はお母さんもお父さんもあいにく仕事。
家までの帰り道。夜になると一通りも少なく、一人で歩くには少し怖い。でも、それと同時に夜の景色を楽しみながら歩けるのでワクワクしていた。同じ道なのに、昼とは全く違う景色に見える。
「今日は雲で隠れて月が見えないなぁ」
小さい頃から月を見るのが好きだった。三日月、半月、満月、毎日色んな形になる。今日はどんな形かな? なんて思いながら、空を見上げる。月は明るいから、まるで夜の街を照らしてるみたいで、なんだかロマンチックじゃない?
今日は天気が悪いわけではないけれど、月は雲に隠れて見えない。月が好きな私としては残念で仕方がない。……と思っていた矢先、
「……っ!眩しっ……!!」
急に月が現れたと思った瞬間、その月はとてつもない輝きを放っていて、目を開けるのがやっとだった。長く目を開けることはできない。まるで太陽を見ているみたいだ。月って、こんなに眩しいものだったっけ? その輝きはすぐにおさまり、私は再び空を見上げた。
「青い、月……?」
普段見ている月ではない。私の目の前には青い月がたしかに存在した。これは夢なんじゃないの?と疑うほど不思議な光景だった。
「早く家に帰らないと!」
空を見上げたまま、立ち尽くしていた私はふと我に帰る。
「え? ちょっと待って……」
時間を見ようとスマホを見ると、「8月32日」と表示されていた。しかも、時間が写し出されていない。今日は8月31日。8月最後の日。8月32日なんていう日付は、そもそも存在しない。
これは一体どういうこと? 親に連絡しようにも、スマホが8月32日と表示されたままで、それ以外、何も出来ない私は空を見上げた。やはり、まだ青い月のままだ。
「あ、れ?」
視線を戻すと、目の前には青い街灯がいくつも並んでいる。ここの街灯は青い街灯ではないし、数も少ない。だけど今はかなりの数だ。違和感を覚えつつも私はそのまま真っ直ぐ歩くことにした。
まだにわかに信じがたい現実が目の前にはある。けど、恐怖よりも好奇心のほうが強かった。
多分、きっと....このまま歩いたとしても、家には着かない気がする。なんとなくそう感じていた。
暫く歩いていくと、道が三つに分かれていた。おかしい……。普通なら二つに道が分かれていて、右に進めば家に着くはずなのに。私は見知らぬ場所に迷いこんでしまったようだ。
私は真ん中の道を選び、歩いた。普通なら右に行くところだが、どのみち家には着きそうにないし、たまには冒険も悪くないだろう。
すると、何か人影らしきものが見えた。体格からして男性だろう。
「あれ、葉月さん?」
「秋月くん?」
そこに居たのは、中学時代の友達、秋月月光(あきづき げっこう)君だった。少し変わった名前だけど、今時らしい名前。それに名前に月が2つも入っていて、私は好きだ。だから私から声をかけ仲良くなった。だけど、高校が別になってからは連絡をほとんど取っていなかった。なんでも、高校は今の場所からかなり遠いため一人暮らしを始めたとか聞いた気がする。
因みに私は葉月紬(はづき つむぎ)。名字に月はついてるものの、名前は至って普通。みんなは女の子らしくて可愛い名前って言ってくれるけど、せっかくなら月が入ってる名前が良かった。でも、この名前も親が一生懸命考えてつけた名前だから気に入っている。
「秋月くん、どうしてここに?」
「葉月さんこそ、どうしてここに? 僕は中学時代の友達と会ってたんだ。その帰り道、ふと空を見上げたら月が急に輝き出して。スマホを見ると8月32日って表示されてて。月だって青くなってるし、信じられる?」
「私は部活の帰りに秋月くんと同じようにここに迷い込んだの。って、私も同じだったから信じるよ。ていうか久しぶり!」
こんな状況だけど、私は久々の再会を喜んだ。
「久しぶり。葉月さん、相変わらず元気だね」
「そりゃあ元気だよ! 高校から入ったバドミントン部も楽しいし! 秋月君は……なんか変わった?」
「そう、かな?」
中学時代の秋月君は今の私のようにとても明るい男の子だった。しかし、今ではなんだか大人しい感じがする。高校生になったから落ち着いたのかな? って思ってたんだけど……。
「それに顔色悪いよ。秋月君、大丈夫?」
「もうすぐ時間なのかも……」
「時間って、なんの?」
秋月君は唐突に訳のわからないことを言い出した。もうすぐ時間って、どういう意味だろう?
「葉月さん。君に会えたのはとても嬉しい。けど時間もないから要件だけ話すね」
「う、うん」
秋月君の様子は、まさに切羽詰まった状態に見えた。
「葉月さん、よく聞いて。君の家がこのまま真っ直ぐなら進んで。もし違っていたら、すぐに戻って、いつも家に帰ってる道を歩くんだ。……わかった? それと、僕に会ったことは誰にも話しちゃ駄目だよ。もちろん家族にも。
それと、この青いバラを君にあげる。そして、この青いバラを家に着くまで絶対離さないこと。このバラはきっと君のタイムリミットを少しだけ止めてくれるはずだから。さぁ、はやく行って!」
「え、ちょっとっ……!」
秋月君は青いバラを私に渡して、まっすぐ歩いて行った私は来た道を戻り、三つの分かれ道に着き、いつも通り、家に帰る右の道を進んだ。もちろん秋月君に言われた通り、青いバラは持ったまま。すると、無事に家に着くことが出来た。
☆ ☆ ☆
「た、ただいま~」
「紬!? あんた、今までどこ行ってたの!?
凄く心配したんだからっ……」
「お、お母さん? あれ? 仕事は?」
「何言ってるの? もう深夜の一時過ぎよ。貴方がなかなか帰って来ないから警察にも連絡したんだから。でも、無事で本当に良かったわ」
「えぇ!?」
スマホを見ると、九月一日、一時五分と表示されていた。それにかたまっていたスマホも普通に動いている。
「どこも怪我してないわね?」
「うん……」
「それならいいのよ。おかえりなさい」
「ただいま。お母さん」
私は泣きながら抱きついてくるお母さんを見て、こっちまで思わず泣きそうになった。こんなにも心配をかけていたなんて。私は自分まで泣きそうだったので話題を変えた。
「部活の帰り道、青い月を見たの」
「今日は曇りで月なんか見えなかったわよ」
「でも、そのあとに月が光を放って青い月にならなかった?」
「そんなことはなかったわよ。それより、その青いバラはどうしたの?」
「この青いバラはね?」
私はふと思い出した。秋月君の言葉を……。
「部活の帰りに花屋に寄ってね? 珍しい色のバラだなぁーって思って、自分で買ったの! その後に本屋さんやゲームセンター寄ってたら、帰りが遅くなっちゃって〜」
私は、秋月君に触れないようにお母さんに嘘をついた。
「夜遅くに本屋とかゲームセンターに行かないの!危ないでしょ!? ほんとに心配したんだからね!?」
「ごめんなさいお母さん。これからは部活が終わったらすぐ帰ってくるから」
「そうしなさいね」
「はーい」
私は青いバラを持ったまま自分の部屋に入った。
「なんだか今日は不思議な夜だったなぁ……」
ふと空を見上げると、月は雲に隠れて見えない。ほんとうにお母さんの言う通りだった。じゃあ私が見た、あの青い月は一体? 明日、秋月君に今日のことメールしてみよう。でも、最後に秋月君が言っていたタイムリミットってなんだったんだろう。私は睡魔に負け、そのまま意識を手放した
☆ ☆ ☆
『次のニュースです』
「おはよう。お母さん」
「ねぇ、紬。中学時代に仲の良かった秋月君っていたわよね?」
「う、うん」
お母さんの顔色が悪い。私は嫌な予感がした。
「……昨日の夜八時頃に隣町で殺されたらしいわ。なんでも中学時代の友達と会ってたみたいで、その帰りに」
「う、そ……」
「しかも犯人は見つかってないらしいの」
「……」
お母さんが何か言っている。けど、私の耳には何も入ってこない。
これは夢? それとも現実?ふと秋月君の言葉を思い出した。タイムリミットと言っていた。それに道が間違っていたら、この道を戻って、いつも自分が帰る方向に進めって。もし、あのとき、そのまま違う道を進んでいたら、私はどうなっていたの?
きっと、この青いバラに守られたんだ。ありがとう、秋月君。でも、どうして、私なんかを助けたの? これを秋月君が使えば、助かったんじゃないの?
『僕は君のことが好きだから。どのみち僕はタイムリミットが過ぎたから家に帰ることは出来なかった。でも君が無事に家に着けたみたいで良かった』
「秋月君!?」
「ちょ、紬。何を言ってるの?」
「今、秋月君の声が聞こえたの!」
「紬、さっきのニュースを見たでしょ? 悲しいのはわかるけど、でも……」
「そうだ! あの青いバラっ……!」
「紬! 学校は!?」
「ちょっと待って!」
私は二階まで一気にかけあがり、青いバラを手にとった。
「秋月君。私、私もずっと貴方のことが好きだった……。だけど別々の学校になったから、自然と離れちゃって。本当はメールも電話もしたかった。でも、高校生になって急に秋月君が変わってたらどうしようって思ったり、彼女でも出来てたらなんて思ったら、気付いたら半年が経ってて。久々に再会したって思ったら秋月君死んじゃうんだもん。私、悲しくて……。でも、好きなのはホントだから」
私は秋月君に貰った青いバラに本音をぶつけた。……返事がないとわかっていても。
『僕も同じこと考えてた。葉月さんに彼氏でも出来てたら、なんて。だって、葉月さん可愛いから』
「あき、づき君? どこにいるの!?」
秋月君の声が聞こえる。でも、どこだろ? わからない。
『……ここだよ、葉月さん』
「え……?」
私は青いバラをジッと見つめた。
『こんな姿になっちゃったけど、これからは僕が守るから』
秋月君は青いバラになっていた。私にはわかる。これが秋月君だということが。あのとき、秋月君の顔色が悪かったのは、きっと自分の命がもう僅かというのを知っていたんだ。
「ねぇ、秋月君を殺した犯人は誰なの!? 私が秋月君の仇をうつから!」
『葉月さん、落ち着いて。……犯人は人間じゃない。それに誰にも殺すことは出来ないよ。ただ、誰もがソレを一度は見たことある。一度じゃないね。何度も、何百回も』
「犯人は人間じゃ、ない? それに誰もが見たことあるってなに?」
『もう考えなくていい。これ以上考えると、ソレがわかってしまうから』
「うん……。わかった」
秋月君のその言葉はすごく重く感じた。
私は話題を変えるように、この言葉を言った。秋月君にもう一度会ったら伝えたいって思っていた。
「秋月君。助けてくれてありがとう。……それと、おかえりなさい」
『ただいま。葉月さん』
秋月君は、もう“人”ではなくなってしまったけれど、そこにちゃんといる。私の大好きな人。これからも、ずっと一緒だよ……。
〜完〜