「ほんとに!? よかった~。六花、中学のときは家庭科部だったし、絶対断られるかと思った!」
安堵する智恵理を前に、曖昧な笑みがこぼれた。
実際、一度目のときの私は高校では部活に入るつもりはなかったし、智恵理に誘われなければ男子バスケットボール部のマネージャーなんて絶対にやらなかったと思う。
でも一度目のときは、智恵理に誘われて〝なんとなくやってみたいな〟と思ったことだけはハッキリと覚えていた。
せっかく高校生になったんだし、少しくらい高校生らしいことができたらいいな。
私はそんな不純な動機で、男バスのマネージャーをやることにしたのだ。
「おい、優吾! 放課後、バスケ部の見学行こうぜ!」
そのとき、そばで賑やかな声が聞こえた。
ハッとして目を向けると、そこには制服姿の大夢くんがいた。
「ひろ――」
と、口にしかけた名前を、私はとっさに飲み込んだ。
危ない。このときの私と大夢くんは、話したこともない完全初対面だ。
いきなり、〝大夢くん〟なんて親しげに声をかけたら、絶対に怪しまれてしまう。
「ん? 今、俺のこと呼んだ?」
でも、大夢くんには聞こえてしまったらしい。
私は必死に首を左右に振って、〝呼んでません、勘違いです〟とアピールをした。
「ねぇねぇ、もしかして、ふたりって男バス入部するの!?」
前に出て声をかけたのは智恵理だった。
おかげで不思議そうに私を見ていた大夢くんの視線が、智恵理に移った。