「伝説は、本当だったんだ」


今度は口に出さずにはいられなかった。

たぶん、前の席の高槻くんには、私はひとり言がエグい同級生として完全に認識されてしまったことだろう。

だけど中身が二十歳なことも関係しているのか、不思議と開き直るのも早かった。

もはやひとり言がどうとか、どうでもいい。

タイムスリップという、非現実的な出来事に比べたら気にするまでもないことだ。

私はあらためて、高槻くんの広い背中を眺めた。

入学したてだからブレザーも新品で、シャツの襟はパリッとしている。

黒板が見えづらくて、すごく背の高い人だなぁと思ったんだ。

ワックスで整えられた黒髪はオシャレだけど、後頭部の一部に寝癖がついているのを見つけるたびに可愛いなぁと思っていた。

目を閉じればつい先ほど、プリントを配るために振り向いた高槻くんの顔が思い浮かぶ。

きれいな二重瞼に、形の良いアーモンドアイ。筋の通った鼻に、薄い唇。高槻くんは入学直後から、同学年の女子の注目の的だった。

ううん、女子だけじゃない。高槻くんは男子からの人望も厚く、周りはいつも賑やかで、輝いて見えた。


「そうそう、部活動についてだけど。部活に入る場合は、配布したプリントにホチキスで留められている入部届を、再来週までに俺に提出するように~」


榎里先生の声で我に返った私は、たった今説明された入部届に視線を落とした。

入部届には学年と氏名、そして入部を希望する部活動名を書く欄がある。

入学初日に入部届について説明されたのも、〝一度目の高校生活〟のときと同じだった。

つまり、もしも私が本当にタイムスリップしているとしたら、このあとも一度目のときと同じことが起きるというわけだろうか。

半信半疑でドキドキしながら、私はそのあとひとり言を自粛して、榎里先生の話に耳を傾けた。