「あ、はは……。だよね。なにも起こらないよね」


一瞬、なにか起きるんじゃないかと期待してしまったけれど。

残念ながら、なにかが起きる気配はなかった。

やっぱり、ただの迷信だったんだ。

もう一度苦笑いをこぼした私は、ボールを拾おうとして足を前に踏み出した。


「え――」


そのときだ。

突然、グニャリと視界が揺れた。


「なに、これ……っ」


直後、立っていられないほどの目眩に襲われた私は、体育館の床に膝をついた。

そして、崩れるようにその場に倒れ込んでしまった。

助けを呼びたいのに、口をハクハクと動かしても声が出なかった。

視線の先には、先ほどゴールリングに吸い込まれたバスケットボールが転がっている。

――もう一度、高槻くんに会いたい。

つい先ほど口にした願いが、頭の中でリフレインした。

そのまま私は、体育館の床の冷たさを感じながら……ゆっくりと意識を手放した。