「あ……」


と、不意に足元にぬくもりを感じて、何気なく視線を落とした。

いったいどこから現れたのか。可愛らしい黒猫が、甘えるように私の足にすり寄っていた。

黒猫は尻尾の先が矢印のように短く折れ曲がっている。


「きみは、どこから来たの?」


手を伸ばして触れようとした。

だけどその瞬間、黒猫は甘えていたのが嘘のように走り去ってしまった。

不思議と、黒猫が去ったあとには潮の香りが残った。


「ハァ……」


――高槻くんのお通夜が始まるまで、まだ時間がある。

ため息をついた私は、ほぼ無意識のうちに黒猫が消えたほうへと足を向けていた。

そのままなにかに導かれるように動きだした私は、高校時代、毎日のように通った通学路を歩き始めた。

駅から高校までは、徒歩で十分とかからない距離だ。

坂道を上ってたどり着いた先には、つい一年半前まで通っていた私たちの母校・海凪高校があった。

建物の外観だけでなく、空気感も以前とまるで変わっていない。