「少年、特別な力が欲しいとは思わんかね?」


 それは、とうに日付が変わった頃合い。日没からは程遠く、かといって日の出もまだまだの時間帯だった。


 月明かりもままならない闇の中、少年は道端に座っていた。その目の前には、少年を見下ろす真っ赤な瞳。人間離れした容姿を持つ彼女が人間ではない、ということは、少年も薄々気づいているであろう。
 

「はぁ?なんだよそれ……」
「其方は我を助けてくれた。その褒美に、特別な力を授けてやろう」
「力を授けるって……なんかのアニメ化漫画のセリフ?そもそも俺、何もしてないし」
「何を言っておる。我に血を与えてくれたではないか」
「いや、あれはあんたが勝手に噛み付いてきただけな
んだろ」


 少年は自身の首筋をさする。そこには、針で刺されたような2つの穴が空いていた。古めかしい言い方の女の仕業、と繋がってしまうが、果たしてそれは正解なのか。


「まぁ、この際はどちらでも良い。なして、其
方はどんな力が欲しいか?」
「なんかテキトーだな……。別に何でもいいよ」
「何でも、か.....ふむ、悩むのう」


 女性は悩み素ぶりを見せてから、不意に唇を品り上げる。


「分かった。では、この力を授けようではない
か」


 そう言って少年の目を手のひらで覆った。


 瞬間ーー、


「ああああぁぁぁあっっ!」


 夜という闇に、絶叫というに相応しい声が響き渡る。


「これは良い能力だぞ」


 そんな声すら、無論、少年の耳には届いていなかった。