ーーーー「ユリシア様!!」

ロランは城内を駆け回り、ようやく、青の園でユリシアを見つけ、小さくあがった息を整えた。

「ロラン?どうしたの?そんなに慌てて?」

「どうしたの?じゃありませんよ!私は、ユリシア様の近衛兵なんです。ユリシア様に、もしもの事があっては困るのです」

ロランは、腰に携えた剣の柄に左手を添えて、右の手を額に当て、やれやれと首を振る。

「あー。またぁ~。何でそんなに、畏まった言葉遣いをするかなぁ~。昔みたいに、砕けた間柄の方が良かったなぁ~」

「そうはいきませんよ」

ロランは寂しげに口を尖らせるユリシアに、優しく微笑みを向ける。

「おぉ~。ロラン。それにユリシア様。ここにいましたか」

そこへ無造作な茶髪を掻きむしりながら現れた、屈強な兵士。

「オーランドさん。珍しいですね、こんなところで会うなんて」

オーランドは筋金入りの戦士であり、基本は訓練場に籠りっきりなのだが、今日は珍しく、ユリシアのお気に入りである、青い花に囲まれた、通称、青の園へと姿を現したため、ロランは身構える。

「ロラン。それからユリシア様。たまには、外へ踏み出してもいいのでは?いくら雨の国とはいえ、外の世界を見ることも、王家の務めですし」

ユリシアにとってその言葉は、何気のない小言のように聞こていたが、ロランだけは、その言葉により顔色を青く染めた。

「え、ええ。私も、そのように思います。さぁ、ユリシア様、早速出かけましょう」

「えぇ~。どうして? 私はここで充分楽しいし、外に行かなくなって、困ることはないでしょ~」

満16歳となったユリシアは、同い歳のロランとは対称的に、子供っぽく駄々をこねてみせる。

「ユリシア様。いえ、ユリシア。いいから、僕についてくるんだ」

「えぇ? そんなズルいよ! 急に昔みたいに。分かったよ! 行けばいいんでしょ? 行けば!」

ユリシアはそう不貞腐れたようにいい放つが、表情には薄く笑みが浮かんでいた。