復命祝詞、荒ぶる魂を鎮める祝詞だ。
呼吸を整えた私たちは揃った柏手を響かせる。
「────綾に畏き天照國照統大神の御前に拝み奉り諸諸の命神等世世の御祖命教主命惠蒙れる人等の御前をも尊び奉りて恐こみ恐こみも白さく」
春の陽だまりのような柔らかな声で紡ぐ鎮魂の詞。
彷徨う魂たちを慰め、導く。
皆の声が混ざり合う。木の葉の隙間から漏れる木漏れ日がいくつも重なり合って大地を温めるように、詞が混じり合い言祝ぎが高まる。
「統大神の高く尊き霊威を蒙り奉りて任け給ひ寄さし給ひし大命の違ふ事無く怠る事無く仕へ奉ると諸諸の荒び疎ぶる禍津日の禍事に穢るる事無く横さの道に迷ひ入る事無く言退け行ひ和して玉鉾の直指す道を踏み違へじと真木柱太敷く立てて仕へ奉りし状を忝み奉りつつ復命竟へ奉らくを見備はし給ひ聞こし召し給ひて……」
思い返せば来光くんはいつも自分を後回しにして、周りを気遣う人だった。
表立って何かをすることはなくても、いつも後ろでサポートしてくれる姿があった。
神修へ来たばかりの頃、分からない事が出てくる度に私が尋ねる前にすかさず教えてくれた。
一学期、空亡の残穢の封印場所で戦った時。夏休みに恵理ちゃんの家で産土神を祓いそうになって大怪我を負った時、二学期に応声虫を焼き払った時。何かあった時、いつも「大丈夫?」と一番にみんなを気遣うのは来光くんだった。