「まぁ何事もなく終わるだろ。邪魔してくるような妖はいなかったし、無害な浮遊霊ばっかだったからな」
伸びをしながら泰紀くんがそう言う。
確かに校舎内で妖を見かけることがなかった。力の弱い妖は私たちに害を加えることはないけれど、音を立てて驚かしたりわざと足元を通って転ばせようとしたりする。
私も神修へ来てすぐの頃は、よく家鳴と呼ばれる小さな鬼の妖にものを隠されたり転ばされたりした。
慣れるとそれなりに対処が出来るけれど、慣れないうちはかなり厄介だ。
「そういや青坊主もいなかったよな。俺昼飯の後トイレ行ったんだよ。あいつ、どこ行っても驚かしてくるから警戒してたとに結局出てこねぇの。逆に漏らすかと思ったわ!」
「俺はまなびの社に来た初日に驚かされたよ。分かっててもヒヤッとするよね」
「それが生き甲斐なんだろ、あのオッサン妖怪」
みんなが話す青坊主というのは、和式トイレに住み着いている妖怪だ。
青い顔をした坊主頭の一つ目をした妖怪で、和式トイレの中からひょっこり現れては人間を驚かせて楽しんでいる。
神修の男子トイレからは毎日誰かが驚く悲鳴が聞こえるくらいイタズラが好きで、私も一度だけ会ったことがある。