「本当だ。今日はもう無理かなあ」
「いや、雨のシーンがあるやん。ちょうどいいから今撮っておこうよ」
「そっか、分かった」
私は俊に返信ができないまま、蓮に呼ばれて急いで次の撮影場所に向かう。俊にはあとで返信しよう、とそっとスマホをポケットにしまった。
雨の日の竜太刀岬は危険だ。岬に近づきすぎると、風雨に足をさらわれてしまうかもしれないから、できるだけ近づかないようにしていた。でも今日は、大事な撮影だから細心の注意を払って、岬のそばまで歩いていく。やがて予想通り雨がぽつぽつと降り始めた。カッパを着て機材を濡らさないように守る蓮と、雨なんて関係ないっていうノリで歩く私。蓮は私を見てぷっと吹き出して笑った。
「なんか風間さん、本物になってきたなあ」
「え?」
「だってさ、雨降っても全然動じんもん。すげえなあ」
「そう、かな。都会だと身なりとか服装とか気にしちゃうけど、田舎ってさ、あんまり人に会わないし、そういうのどうでもよくなる」
「そおかそおか。人としていいか悪いか分からんけど、モデル的にはばっちりや」
貶しているのか褒めているのか分からないふうに蓮が言うので、私はむっとしてしばらくは素直な表情に戻れなかった。でもその間も、雨に打たれる私の顔を、腕を、足を、蓮は撮り続けた。暗い雲に比例するように、青かった海は灰色に変わっていく。私なんかよりよっぽど素直な海の色だ。
「おお、いいね。その表情。雨がいい感じや。今度は手を大きく広げて。視線は外して——」
蓮と私が撮っているのは、都会からこの町に引っ越してきた少女が自分の心の傷と向き合い、羽ばたいていく、というようなストーリーだ。ストーリーと言っても会話やナレーションが入るわけではなく、映像と音楽だけで作り上げる。少女が何を思い、感じているのかは視聴者の想像にお任せするという方針だ。
蓮が私を見て、インスピレーションを得た作品だ。ほとんどそのままの私、ということになる。だから私は気負わずにありのままの自分で、撮影に挑むことができていた。
「よし、今日はここまでにしよう」
雨がかなりひどくなってきたので、蓮はカメラをしまった。私も、これ以上続けたら風邪を引いてしまうかもしれないと思っていたのでちょうどよかった。
私たちはその辺の屋根のある建物の下まで行き、蓮はカッパを脱いだ。鞄からタオルを取り出すと、私の方に差し出してくれた。
「ありがとう。タオルなんて持ってたんだ」
「そや。いつ何時でも雨に濡れる可能性があるけん。こういうのは持ち歩いておくと便利なんよ。服、濡らしてしまってごめんな」
「ううん、大丈夫。家に帰ったらすぐ着替えられるし」
「いや、雨のシーンがあるやん。ちょうどいいから今撮っておこうよ」
「そっか、分かった」
私は俊に返信ができないまま、蓮に呼ばれて急いで次の撮影場所に向かう。俊にはあとで返信しよう、とそっとスマホをポケットにしまった。
雨の日の竜太刀岬は危険だ。岬に近づきすぎると、風雨に足をさらわれてしまうかもしれないから、できるだけ近づかないようにしていた。でも今日は、大事な撮影だから細心の注意を払って、岬のそばまで歩いていく。やがて予想通り雨がぽつぽつと降り始めた。カッパを着て機材を濡らさないように守る蓮と、雨なんて関係ないっていうノリで歩く私。蓮は私を見てぷっと吹き出して笑った。
「なんか風間さん、本物になってきたなあ」
「え?」
「だってさ、雨降っても全然動じんもん。すげえなあ」
「そう、かな。都会だと身なりとか服装とか気にしちゃうけど、田舎ってさ、あんまり人に会わないし、そういうのどうでもよくなる」
「そおかそおか。人としていいか悪いか分からんけど、モデル的にはばっちりや」
貶しているのか褒めているのか分からないふうに蓮が言うので、私はむっとしてしばらくは素直な表情に戻れなかった。でもその間も、雨に打たれる私の顔を、腕を、足を、蓮は撮り続けた。暗い雲に比例するように、青かった海は灰色に変わっていく。私なんかよりよっぽど素直な海の色だ。
「おお、いいね。その表情。雨がいい感じや。今度は手を大きく広げて。視線は外して——」
蓮と私が撮っているのは、都会からこの町に引っ越してきた少女が自分の心の傷と向き合い、羽ばたいていく、というようなストーリーだ。ストーリーと言っても会話やナレーションが入るわけではなく、映像と音楽だけで作り上げる。少女が何を思い、感じているのかは視聴者の想像にお任せするという方針だ。
蓮が私を見て、インスピレーションを得た作品だ。ほとんどそのままの私、ということになる。だから私は気負わずにありのままの自分で、撮影に挑むことができていた。
「よし、今日はここまでにしよう」
雨がかなりひどくなってきたので、蓮はカメラをしまった。私も、これ以上続けたら風邪を引いてしまうかもしれないと思っていたのでちょうどよかった。
私たちはその辺の屋根のある建物の下まで行き、蓮はカッパを脱いだ。鞄からタオルを取り出すと、私の方に差し出してくれた。
「ありがとう。タオルなんて持ってたんだ」
「そや。いつ何時でも雨に濡れる可能性があるけん。こういうのは持ち歩いておくと便利なんよ。服、濡らしてしまってごめんな」
「ううん、大丈夫。家に帰ったらすぐ着替えられるし」