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「ちがうちがう、もっと上。いや斜め上向いて。口は閉じて。そう! あの岬の方を見てて」

それからというもの、蓮と私は暇さえあれば撮影、撮影、の日々を送った。大会は毎年行われているのに、蓮は三年生になってからしか作品を出さないと言い出した。どうして、と聞くと、一つの作品を時間をかけてつくりたい。私とつくる映像はたぶん、青春の時間をすべて注ぎ込んでしか、完成させられないのだと言った。

なんだか蓮らしいな、と思いつつ私は彼と一緒に、自分の全てをさらけ出せるようになるまで走った。走って走って、息が切れるくらい、汗だくになっていた。動画の撮影ってこんなに体力を使うのかと驚いたものだ。撮影だけじゃない、編集だって相当骨の折れる作業だ。
幾度となく先輩たちから「手伝おうか?」と問われたが、蓮は頑なに遠慮し続けた。きっと先輩たちにも、自分と同じように本気で作っている映像があるから。邪魔をしたくないんや、と主張する姿は格好良かった。


二年生に上がると、映像研究会にも後輩が入ってきた。
後輩たちは全部で5人。私と蓮の時よりもだいぶ多くて驚いた。私と蓮は後輩に指導をしながら映像を撮り続けた。まだだ。まだダメだ。もっと突き詰めよう。もっと勉強して、いい画を撮ろう。その頃にはもう私もまったく素人ではなくなっていて、YouTubeなりテレビなり映画なりで勉強した知識をもとに、蓮に対しても意見を言えるようになっていた。二人で話し合いながら、竜太刀の町を舞台に駆けずり回った。

「風間さん、今日は表情が硬いよ」

「蓮だって、指示が曖昧じゃん」

「そんなことないわ! いつも通りやん」

「それじゃあ、“いつも通り”がもう私には通用しなくなったんだよ」

「なんやって」

掌の中に収まっていた宝石を、二人で削り合うようにして撮影をした。私はいつも、撮影の時は竜太刀岬の岩肌を思い出してしまう。ものすごい勢いでぶつかってくる波を、強く弾き返す。蓮と自分の本気の想いをぶつけ合っている時、あの岬とおんなじだと感じるのだ。

「あ、ちょっと、ごめん」

ポケットに入れていたスマホが震え、私は蓮に一時中断を申し出た。蓮は「分かった」と言って手慰みに野鳥を撮影し始める。私はスマホの画面を見た。俊からメッセージが来ていた。

『凛、元気でやってる? いま撮影中かな。俺のほうは、夏の大会に向けて必死でやってる』

俊からは時々、忘れた頃にこうして連絡があった。大抵はお互いの近況報告をし合う。メッセージの文面が映し出す俊は、中学の頃から変わらず格好良くて、私の唯一無二がたくさん詰まった存在だった。

「うん、撮影中。俊のサッカー、また見たいな。撮影してるとね、竜太刀岬の自然みたいだなって思うの。波と岩が殴り合って——」

そこまで文を打ったところで、蓮から「風間さん、雨が降りそう!」と言われてはっと顔を上げる。