違う。違うよ。違うんだよ。
私が動画の中でむきだしになれたのは、遠くから支えてくれる人の言葉があったからだ。
どれだけ蓮と一緒に撮影をしていても、私の心から離れていかなかった大切な人の存在。離れるどころか、どんどん膨らんでいった俊への想い。
この気持ちはきっと、岩にぶつかったって、散っていかない。大きな私の波だ。

「私、俊が好きだよ」

雲から覗く太陽の光が、見計らったかのように、私と俊の間をすっと照らす。
俊との距離は、1メートルほどしかない。あんなに遠くにいた彼が、手を伸ばせば触れることのできる場所にいる。そう思うと、全身が震えるくらい嬉しかった。

俊の目が大きく見開かれる。
どうして、なんで、とその目が私に聞いている。たぶん俊は、私が蓮のことを好きなんだと思っていたんだろう。私は俊の目を見つめながら、口を開いた。

「中学卒業の日、俊に好きだって言われて、本当は嬉しかった。でも私、まだ子供で、好きっていう気持ちが分からなくて。俊と友達でいられなくなるかもって思うと、怖くて頷けなかったんだ。だけど竜太刀の町に来て、俊がずっと私のことを気にかけてくれているのを知って、本当は俊のこと、好きなんだって気づいた。蓮に対しては、相棒みたいな居心地の良さを感じてたけど、恋じゃなかった。蓮の夢にのっかって活動していくうちに、自分の心と向き合う時間が増えたの。苦しい時、いつも心に思い浮かぶのは俊の顔だった」

俊はじっと私の言葉に耳を傾けている。
遠くからまた、波の音が聞こえたような気がした。

「この町って不思議なんだ。竜太刀岬がそばにあって、岬の岩に波がぶつかっていくのを、私はいつも想像してしまうの。実際に目にしてしまうと自然ってなんて怖いんだろうって思う。でも私も、あんなふうに全力でぶつかってみたい。自分が好きだと思う人に、まっすぐ……」

蓮がくれたのは、本当の心を隠さずに見せる強さ。
俊がくれたのは、たとえ道に迷っても絶対にそばにあると信じられる温もり。

どっちも大切な、宝物だ。

「俊がずっと『がんばれ』って言ってくれたこと、言ってくれない時も『がんばれ』って思ってくれていたこと、私はすごく嬉しかった。心のいちばん奥深くがあったかくなって。遅くなったけど、やっと気づいたの。私は俊のことが好きだって」

私が言葉を発すれば発するほど、俊の瞳に涙が溜まっていくのがわかった。雲がかっていた空から、風に乗って雲が流れ、晴れの空が広がる。日の光は俊の瞳に反射して、宝石みたいだと思った。