雨も晴れも、すべてがドラマの一部だった。
二年とちょっと、二人三脚で動画を撮り続け、蓮がカメラを下ろしたのは6月はじめのことだ。
コンクールの提出まで残り一ヶ月。動画は撮るだけじゃなく編集しなければならない。これまでも編集はしていたが、最後の仕上げに一ヶ月は必要だった。
私たちは教室で机を寄せ合って、ひたすら動画を編集していた。
熱中しすぎて授業の準備を忘れたこともある。その度に先生たちに「受験生でしょ」と注意を受けながらも、また放課後には部室で編集作業に取り掛かった。
そしてようやく動画が完成した。
タイトルは、『岩にくだけて散らないで』。
竜太刀岬の岩にぶつかる波を何度も見て感じた私のむきだしの想いを、そのままタイトルにしたのだ。蓮は「いいね」とすぐに肯定してくれて、タイトルを編集してくれた。
部室で蓮と二人、大の字になって寝そべって、ようやく終わった達成感と寂しさを噛み締めながら、蓮といろんな話をした。あの時の撮影は大変だったとか、私の気分が乗っていなくてなだめるのに苦労したとか、喧嘩して撮影を中止しようと思ったけどあえて怒った私の顔を撮ったとか、ほとんど負の思い出じゃん、と私がツッコむと、蓮はおかしそうに吹き出した。
とにかく撮影に関するあらゆる瞬間が愛しくて、撮影に関わらせてくれた蓮に感謝した。がらんどうの気持ちで竜太刀岬にやってきた私の心の隙間を埋めてくれたモデルという仕事が、楽しくて仕方がなかったのだ。
その日の夜、私は俊に電話をかけた。
「俊、動画が完成したよ。明日には送れそうだよ」
俊の吐息を感じながら、開口一番にそう切り出した私に、俊は「本当か!」と驚きに満ちた声を上げた。
『やった、やったな、凛。がんばったんだな』
「……うん、がんばったよ」
頑張った、と口にした途端、今まで身体の中で張り詰めた糸が一気に緩んだような気がして、「はあー!」と深く息を吐いた。
『すげえな、凛は。新しい場所で新しいことに挑戦して最後までやり遂げたんだ。すげえ、すげえよ、ほんと。……もう、俺の知らない新しい凛、なんだよな』
とくん、とくん、とコップに入れた水が揺れるみたいに、俊の声も揺れていた。私はどうしてか、胸の奥の奥の方がきゅっと締め付けられて、俊に何か言いたいのに、どんな言葉をかければいいのか分からなくなってしまった。
俊に会いたい。
いますぐに、会いたい。
でも会えない。ひょっとしたら、もう二度と——。
『凛、俺はな、俺はずっと、凛のことを応援してるから。どこにいても、800km先からでも、2000km離れてても。凛が何をしてもしなくても、変わらねえよ。それだけは覚えててくれ』
じゃあ、と俊が電話を切ろうとした。待って。言葉が喉につっかえて出てこない。とっさに「俊!」と彼の名前を呼んだ。
「私、は、俊のおかげで、立ってられたんだよ。遠くても、竜太刀岬のゴツゴツした岩と激しい波が怖くても、砕け散らないで、ここまでこれたんだよ。俊は、真っ暗な夜の海で、絶対にそこにあるって信じて頼れる灯台の光だったよ」
『……ああ』
そうだ。俊は、光だった。私はその光を頼りに、今まで新天地で新しい挑戦に挑むことができていたんだ。一人ではダメだった。もちろん蓮がいてくれたから成し遂げられたことだが、俊がいなかったら、途中で挫けていたかもしれない。
「だから、ありがとう」
不器用な私が俊に今すぐ伝えなければならないとすれば、感謝の言葉以外の何ものでもない気がした。
俊は電話の向こうで、嬉しそうに『よかった』と呟いた。
『動画、楽しみにしてる』
「うん!」
二年とちょっと、二人三脚で動画を撮り続け、蓮がカメラを下ろしたのは6月はじめのことだ。
コンクールの提出まで残り一ヶ月。動画は撮るだけじゃなく編集しなければならない。これまでも編集はしていたが、最後の仕上げに一ヶ月は必要だった。
私たちは教室で机を寄せ合って、ひたすら動画を編集していた。
熱中しすぎて授業の準備を忘れたこともある。その度に先生たちに「受験生でしょ」と注意を受けながらも、また放課後には部室で編集作業に取り掛かった。
そしてようやく動画が完成した。
タイトルは、『岩にくだけて散らないで』。
竜太刀岬の岩にぶつかる波を何度も見て感じた私のむきだしの想いを、そのままタイトルにしたのだ。蓮は「いいね」とすぐに肯定してくれて、タイトルを編集してくれた。
部室で蓮と二人、大の字になって寝そべって、ようやく終わった達成感と寂しさを噛み締めながら、蓮といろんな話をした。あの時の撮影は大変だったとか、私の気分が乗っていなくてなだめるのに苦労したとか、喧嘩して撮影を中止しようと思ったけどあえて怒った私の顔を撮ったとか、ほとんど負の思い出じゃん、と私がツッコむと、蓮はおかしそうに吹き出した。
とにかく撮影に関するあらゆる瞬間が愛しくて、撮影に関わらせてくれた蓮に感謝した。がらんどうの気持ちで竜太刀岬にやってきた私の心の隙間を埋めてくれたモデルという仕事が、楽しくて仕方がなかったのだ。
その日の夜、私は俊に電話をかけた。
「俊、動画が完成したよ。明日には送れそうだよ」
俊の吐息を感じながら、開口一番にそう切り出した私に、俊は「本当か!」と驚きに満ちた声を上げた。
『やった、やったな、凛。がんばったんだな』
「……うん、がんばったよ」
頑張った、と口にした途端、今まで身体の中で張り詰めた糸が一気に緩んだような気がして、「はあー!」と深く息を吐いた。
『すげえな、凛は。新しい場所で新しいことに挑戦して最後までやり遂げたんだ。すげえ、すげえよ、ほんと。……もう、俺の知らない新しい凛、なんだよな』
とくん、とくん、とコップに入れた水が揺れるみたいに、俊の声も揺れていた。私はどうしてか、胸の奥の奥の方がきゅっと締め付けられて、俊に何か言いたいのに、どんな言葉をかければいいのか分からなくなってしまった。
俊に会いたい。
いますぐに、会いたい。
でも会えない。ひょっとしたら、もう二度と——。
『凛、俺はな、俺はずっと、凛のことを応援してるから。どこにいても、800km先からでも、2000km離れてても。凛が何をしてもしなくても、変わらねえよ。それだけは覚えててくれ』
じゃあ、と俊が電話を切ろうとした。待って。言葉が喉につっかえて出てこない。とっさに「俊!」と彼の名前を呼んだ。
「私、は、俊のおかげで、立ってられたんだよ。遠くても、竜太刀岬のゴツゴツした岩と激しい波が怖くても、砕け散らないで、ここまでこれたんだよ。俊は、真っ暗な夜の海で、絶対にそこにあるって信じて頼れる灯台の光だったよ」
『……ああ』
そうだ。俊は、光だった。私はその光を頼りに、今まで新天地で新しい挑戦に挑むことができていたんだ。一人ではダメだった。もちろん蓮がいてくれたから成し遂げられたことだが、俊がいなかったら、途中で挫けていたかもしれない。
「だから、ありがとう」
不器用な私が俊に今すぐ伝えなければならないとすれば、感謝の言葉以外の何ものでもない気がした。
俊は電話の向こうで、嬉しそうに『よかった』と呟いた。
『動画、楽しみにしてる』
「うん!」