私は蓮から受け取ったタオルで全身を拭きながら、ポケットの中にスマホを入れたままにしていることに気づいた。しまった。雨に濡れて壊れてたらどうしよう、と恐る恐る画面をタップしてみると、スマホは意外にも生きていた。さすが、最新機器だと感心していると、蓮が私のスマホを覗き込んでいることに気づいた。
「さっき、幼なじみの子から連絡が来とったんやろ」
「え?」
とっさのことで、私はハッとして蓮の方に顔を向けた。蓮はまっすぐな瞳で私を見据えている。
「うん、来てた。でもなんで知ってるの?」
「そんなのすぐに分かるよ。風間さんの表情を見てれば、俊ってやつから連絡が来たんだって。俺、風間さんのことずっと撮ってるんだ。俊のことを考えてる風間さんの顔は、他のどの瞬間とも違う」
蓮の言葉は、俊の言葉とは全然違う。
蓮は出会った時から私のことをカメラ越しに見ていて、でもだからこそ私の細かい表情や機微に気づいてくれる。蓮は私のことを、単なる撮影対象としか見ていないのとは違うような気がして、私は自分の鼓動が早くなるのを感じた。
「まだ返信できてないんやない?」
蓮にそう言われ、私は俊とのトーク画面を開く。
元気にしてる? という俊からの問いかけが来てから約2時間。私は、先ほど返信しかけていた文に続きを打った。
「うん、撮影中。俊のサッカー、また見たいな。撮影してるとね、竜太刀岬の自然みたいだなって思うの。波と岩が殴り合って、荒くて痛いのに、止まらないの。俊と話してると私、なんでか胸の一番真ん中が、波みたいに激しく揺れる。だけど、もっと話したいって、思う。止まらなく、なる」
送信ボタンに触れながら、自分が俊に向けた文章を口に出していることに気がつき、はっと口を抑える。蓮に余計なことを聞かれてしまって恥ずかしい。
「……俺さ、本当はさっき、風間さんが俊に返信できないうちに声かけたんよ」
「え?」
蓮の目が私を見て震えているみたいに揺れていた。目が震えることなんてないはずなのに、私にはそう映った。
「卑怯やろ。知らん間に、俊に、嫉妬してたんかもしれんな」
「……」
蓮はそれだけ言い捨てると、「これ、持っていき」と行って私に折り畳み傘をくれた。用意周到すぎて本当に驚かされる。私は震える手で傘を受け取ると、再びカッパを着て颯爽と建物の下から走り去ってしまった。
「嫉妬して……」
その言葉の意味するところを考えると、今度は胸の端っこの部分が、刺されたように痛かった。私は蓮から受け取った折り畳み傘を開き、自宅の方へと歩き出す。時々雨でぬかるんだ地面に、足を取られそうになるのにも、体勢を整えて回避するのにも、とっくに慣れてしまっていた。
「さっき、幼なじみの子から連絡が来とったんやろ」
「え?」
とっさのことで、私はハッとして蓮の方に顔を向けた。蓮はまっすぐな瞳で私を見据えている。
「うん、来てた。でもなんで知ってるの?」
「そんなのすぐに分かるよ。風間さんの表情を見てれば、俊ってやつから連絡が来たんだって。俺、風間さんのことずっと撮ってるんだ。俊のことを考えてる風間さんの顔は、他のどの瞬間とも違う」
蓮の言葉は、俊の言葉とは全然違う。
蓮は出会った時から私のことをカメラ越しに見ていて、でもだからこそ私の細かい表情や機微に気づいてくれる。蓮は私のことを、単なる撮影対象としか見ていないのとは違うような気がして、私は自分の鼓動が早くなるのを感じた。
「まだ返信できてないんやない?」
蓮にそう言われ、私は俊とのトーク画面を開く。
元気にしてる? という俊からの問いかけが来てから約2時間。私は、先ほど返信しかけていた文に続きを打った。
「うん、撮影中。俊のサッカー、また見たいな。撮影してるとね、竜太刀岬の自然みたいだなって思うの。波と岩が殴り合って、荒くて痛いのに、止まらないの。俊と話してると私、なんでか胸の一番真ん中が、波みたいに激しく揺れる。だけど、もっと話したいって、思う。止まらなく、なる」
送信ボタンに触れながら、自分が俊に向けた文章を口に出していることに気がつき、はっと口を抑える。蓮に余計なことを聞かれてしまって恥ずかしい。
「……俺さ、本当はさっき、風間さんが俊に返信できないうちに声かけたんよ」
「え?」
蓮の目が私を見て震えているみたいに揺れていた。目が震えることなんてないはずなのに、私にはそう映った。
「卑怯やろ。知らん間に、俊に、嫉妬してたんかもしれんな」
「……」
蓮はそれだけ言い捨てると、「これ、持っていき」と行って私に折り畳み傘をくれた。用意周到すぎて本当に驚かされる。私は震える手で傘を受け取ると、再びカッパを着て颯爽と建物の下から走り去ってしまった。
「嫉妬して……」
その言葉の意味するところを考えると、今度は胸の端っこの部分が、刺されたように痛かった。私は蓮から受け取った折り畳み傘を開き、自宅の方へと歩き出す。時々雨でぬかるんだ地面に、足を取られそうになるのにも、体勢を整えて回避するのにも、とっくに慣れてしまっていた。