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「美那、また明日ね〜! バイバーイ!」

「うん、また明日」



初日の学校が終わって自転車通学の澪とは校門でバイバイして、徒歩で駅に向かっていた。
その道中、メッセージで送信されたプロフィールを確認すると、そこには確かにカリフォルニアから帰国して1週間と書いてあったが、前文を見返したら生粋の埼玉県民と書いてあった。



「げげっ! カリフォルニアに留学してたのは1年ぽっきり? 確認しないまま自己紹介したからクラスメイトに大嘘ついちゃったよ〜。……ま、いっか。バレる機会もないし」



私は反省を機にスマホをじっと見つめて重要事項を頭に叩きつけていた。
集中して見ていたせいか、誰かからポンっと肩を叩かれた瞬間、「ひぇっ!」と声が漏れる。



「佐川さん……だったよね」



びっくりした目のまま声の元へ振り返ると、そこには……。



「滝原くん? ……私の名前覚えてくれたんだ」

「さっき篠田から聞いた。あいつとは同級生なんだ。さっき仲良さそうに喋ってるのが見えたから」


「そっか、澪から聞いたんだね」

「少し話をしたいんだけど、もしかして急いでる?」


「ううん、全然ぜんぜんっ(ひま)! めちゃくちゃ時間たっぷり空いてます。暇すぎて道草食おうと思ってたところ……デス」



滝原くんは何度見てもカッコイイし、自分のターゲットだし、女の子に囲まれて手が届かなそうな存在だと思っていたから、緊張してつい変な言動になってしまった。
でもまさか、彼の方から声をかけてきてくれるなんて……。


それから一緒に歩いていると、桜並木の道に差し掛かった。
ふわりふわりと舞い降りてくるハート型の桜の花びら。
このシチュエーションだけでも充分ドラマティックなのに、あの滝原くんと2人きり。
ショーウィンドウに2人並んで映ってる姿は、まるで恋人のように見えてちょっと恥ずかしい。

……でも、恋なんてしちゃダメ。
人間界で恋なんてしたら、きっと辛い未来が待ち受けてるから。



「あっ、そうだ! 滝原くんに言いたい事があったんだ」

「俺に言いたい事?」


「うん。今朝はひったくりからカバンを取り返してくれてありがとう」

「あぁ、その件ね。今朝は偶然現場に居合わせたから」


「……私ったら運が悪すぎるよね。あのまま盗まれたら本当に困るよね。でも、あの後滝原くんは病院に搬送(はんそう)されたけど大丈夫だったの?」



と心配の目で聞いた瞬間、彼は並んで歩いていた足を止めた。



「実はその件なんだけど……。俺が病院に搬送された事を秘密にしてくれないかな」

「えっ、どうして?」


「実は俺、重度の貧血持ちなんだ」



そう言われた瞬間、頭の中が真っ白になった。
何故なら、私は彼の血液が必要な立場なのに、彼は血液状態がよろしくないと言ってきたから。



「へっ、貧血? 貧血って、もしかしてあの……」

「うん、めまいや立ちくらみや息切れなどするあの貧血。重大な病気を抱えてる訳じゃないけど、少し無理をしたり、睡眠不足の時に症状が強く出る場合があって。今日がまさにそんな感じで」



夏都は深刻そうな表情でそう呟くが、美那は別の意味でショックを受けた。
貧血を知ってから吸血するのと、知らないで吸血するのじゃ心の持ちようが違うから。



「そうだったんだ(嘘でしょ……)」

「今まで人に知られたくなくて内緒にしてきたんだ。これが原因でやりたい事が犠牲になって、我慢や辛い想いばかりして悩んでて……」


「でも、どうして私に教えたの?」



内緒と言ってるにも拘わらず、どうして初対面の私に秘密を打ち明けたのかが気になった。
すると、彼は言った。



「信用出来る目をしてたから。この人だったら言ってもいいかなって。だから、秘密を知ってるのは佐川さんだけ」



私はこの瞬間、二つの重い事情を抱えた。

一つ目はヴァンパイアのミッション。
そして、もう一つは滝原くんの貧血の件。
正直に言うと、秘密を明かす人を間違えてる。



「そっかぁ……。でも、これからも貧血で倒れる可能性があるって事だよね?」

「保健室に世話になる事が多いと思う。だから、教室にいなくても気にしないで」


「わかった。これからも不便があると思うから、私で良ければ力になるから遠慮なく頼ってね!」

「ありがとう」



呼び止められた時は何も知らなかったからぬか喜びしてたけど、私はこれから滝原くんに三回吸血しなきゃいけない立場なのに……。

くうぅぅ。
ターゲットが貧血持ちなんて聞いてないっ!
しかも、自分が一体誰の味方をしてるかわからないほど善人ヅラをしてるし。