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「あの、大丈夫ですか? もしもし、もしもし……。お嬢さん…………」
ーー目が覚めたら道路に寝転がっていた。
それは91日前と同じ。
30代くらいの子持ちの女性が声をかけてきて目が覚めた。
相変わらず酷い到着に思わずクスッと笑った。
「あっ、はい! 大丈夫です」
右薬指にヴァスピスはないし、カンカン照りの太陽を浴びても身体に異常はない。
空を見上げたらフワリフワリと舞い降りてきた桜が頬に止まった。
やっぱり人間界に戻ってきたんだね……。
戻ってきた実感で感無量になり、スマホとカバンを持っている両手を伸ばしてうーんと目一杯に伸びをして空を見上げてると……。
ブロロロロ……
右手にかけていたカバンが後方から来たバイクにサッと奪われた。
「う……そ……。私ったら、滝原くんと出会う事でいっぱいいっぱいになってて、ひったくりに遭う事をすっかり忘れてた!」
びっくりするほどあの時とシュチュエーションと同じ。
一度痛い目に遭ってるにもかかわらず学習してない自分にガッカリしたが、この先の展開がわかっている。
彼に会えると思った瞬間。
胸のクスクスが止まらなくなった。
私が全力で走ってバイクを追いかけていると、隣からサッカーボールが過った。
それが犯人の手にピンポイントで直撃してカバンとボールが落下。
犯人は振り向きざまに舌打ちしてアクセル全開にすると、バイクは左角を曲がって去って行った。
彼は転がってるボールを手に取って近くにいる小さな男の子に「ありがとう」と伝えてボールを渡した後、私に所へカバンを持ってきてくれた。
「大丈夫? 怪我してない?」
滝原くんはあの時と同じ返答。
実際は数時間ぶりだけど。
でも、残念ながら2人の思い出は私の胸の中にしか残されていない。
この後はすぐに倒れてしまう事がわかっているから先に聞いた。
「大丈夫だよ。でも、どうして私を助けてくれたの?」
滝原くんと出会ってから沢山助けてもらった。
でも、最初の1週間くらいは怜くんを傷付ける為に近付いたと言ってたけど、今はまだ怜くんに出会う前。
見ず知らずの私の為にサッカーボールに触れて助けてくれた事が印象的に残った。
何故なら、彼は貧血が原因でサッカーから距離を置いていたから。
すると、彼はポケットから何かを差し出しながら言った。
「このコウモリのハンカチでケガの手当てをしてくれた子にありがとうを伝えたかったから」
「えっ……」
「どうやって手当てしてもらったのか覚えていないけど、このハンカチは君が持ち主だっていう事ははっきり覚えてる」
「……っっ!」
本来なら消えててもおかしくなかった記憶。
それが、紗彩からのお土産だと知った途端、嬉しくて涙が止まらなくなった。
まさか、こんな形でプレゼントしてくれるなんて……。
「ごめん、私もどうやってケガの手当てをしたかわからないの。……でも、そのハンカチは私の物だよ」
私は両目から涙をこぼしながら彼からハンカチを受け取った。
ーーこうして、私たちは無事に再会した。
楽しかった思い出も、辛かった思い出も、全てスタート地点に戻ってしまったけど、私は充分に満足している。
だって、これからは滝原くんがサッカーをしている姿を見守る事が出来るから。
しかし、ハンカチを受け取った途端、彼は突然力が抜けてドサッと道端に倒れた。
私は頭の中が真っ白になってギョッと驚いた目を向ける。
「えっ……、えぇっ?! あ、そっか! 最初のうちは貧血が酷かったんだっけ……。忘れてたよ〜。すみませ〜ん! 誰かぁ〜、救急車を呼んでくださいっっ!」
そして私は、再び彼に栄養を与え続ける日常が始まっていく。
【完】