キーン コーン カーン コーン
自己紹介が終わって束の間の休み時間に。
滝原くんに今朝のお礼を言いたくてすかさず顔を横に向けると……。
「滝原くん……だよね。私達と仲良くしてくれませんか〜?」
「ねぇねぇ、どの辺に住んでるの?」
「ずばり! 彼女いますか〜?」
彼の姿を目に映す事なく三つの背中が壁になった。
キャアキャアと盛り上がりを見せながら、彼に質問攻めをしている。
まだお礼すら伝えてないのにと思いながら座ったままひょいと覗き込もうとしたけど、彼女たちの紺色のブレザーが邪魔して顔が見えない。
高校生活の初日なのにすごい人気。
確かに、こんなにイケメンなら誰でも仲良くしたくなるよね。
初っ端から女子に囲まれちゃうくらいだから、話すチャンスはやってくるかなぁ……。
でも私、この人に三回吸血しなきゃいけないんだよね。
はぁ〜、ハードルが高くて自信ないかも……。
「ごめん、そーゆーの苦手だから」
彼が気だるそうに席を離れて教室を出て行くと、壁になっていた女子集団も後を追って行った。
私はぼんやりとした目で空席を見つめて深いため息をついていると……。
「ねねねっ! 佐川さんって帰国子女なんでしょ。もしかして英語ペラッペラなの?」
後ろの席の女子が手早く肩を二回叩いて話しかけてきた。
振り返ると、彼女は前のめりになって私に興味の目を向けている。
そんな彼女は、髪はゆるふわの二つ結びでまとめていて目がパッチリで明るい雰囲気の子。
「(うっ……、それは司令部が勝手に決めた事であって英語なんて喋れないよ)……少しだけね。ほ~んの少し」
「うっわ! 自慢とか苦手なタイプ? かわいい上に好感度高っ! じゃあさ、部活! 以前は何部に入っていたの~?」
「えっ……(し、しまったぁ! 人間界に到着してから時間がなくて偽プロフィールを細かく調べてなかった)。……えぇっと、に……日本語部(ってか、アメリカにそんな部活あるの?)」
「ふぅん……。そんなに珍しい部活があるんだぁ。でもさ、びっくりするほど日本語が上手だね」
「あっ……、うん。日本語がよくわからなかったから、部活で猛勉強させてもらったの(実際はヴァンパイア界で10年学ばせてもらったけどね)」
「へぇ、すっっごい努力家! 私は中学ん時にバレー部入ってたんだ。ねぇ、仲良くしたいんだけど、早速今日から美那って呼んでもいい?」
「えっ、うん……。いいけど」
「私は篠田 澪って言うんだ。澪って呼び捨てでいいよ。仲良くしてね!」
澪はマシンガントークと言えるくらいポンポンと話題を出してくるタイプ。
口から出まかせの嘘がチリのように積もり積もってしまったけど、彼女が話しかけてくれたお陰で初めて人間の友達が出来た。
知らない地に来てからまだたったの2時間。
正直心細かったから澪が話しかけてくれて嬉しかった。
「ねっ! 君、美那ちゃんって名前だったよね。かわいい子の名前はすぐインプットしちゃうんだ。あ、俺壺内 怜っていうんだ。仲良くしてね!」
澪と雑談していると、自己紹介の時に「かわいい」と言ってきた金髪の男子がにっこりと横から顔を覗き込んできた。
さっきは気持ちに余裕がなかったから顔をよく見てなかったけど、整えてある太眉に、くりりとした目の二重に、形の良い鼻に、シュッとした顎のなかなかのイケメン。
澪「ばーか。初対面のクセにかわいい子には馴れ馴れしいんだよ」と、呆れた目で怜のお腹をグーでパンチ。
怜「ぐほっ、いてて……。いきなりパンチはやめろって」
澪「怜は中学ん時からず〜っとこんな調子なんだから。……あ! 怜とは小学校の時からの同級生なの。腐れ縁ってやつ」
美那「そうなんだ。お友達がクラスにいると心強いよね!」
怜「澪はさ、昔から男まさりの性格だから全然男が寄ってこないの」
澪「あ~っ、余計な事を言うな!」
美那「二人って仲がいいんだね!」
……と、見たままの素直な感想を言っただけなのに2人は。
怜・澪「全然っ、仲良く事ない!」
同時に鬼のような形相を向けて、ビックリするくらい息がぴったり合っていた。