ーー翌朝。
私は魂が抜けた顔でふらふらとした足取りで登校してると、自転車で登校中の怜くんがキキーっとブレーキの音を立てて隣に止まった。
「美那っち、おはよ〜!」
「あっ、怜くんおはよ……」
「表情冴ないけど平気? まだ夏都と仲直りしてないの?」怜は自転車を下りて並んで歩く。
「……うん、もう嫌われちゃったのかもしれない」
私は感情的になると瞳に涙を潤ませた。
「美那っちがそうやって悲しそうにしてると、俺も悲しいし何かしてやりたくなっちゃうな〜」
「あははっ、怜くんは優しいからね……」
「俺の場合はさ、原因不明のまま嫌われてて解決策がないけど、美那っちはケンカの原因がわかってるから話し合えばわかってくれそうな気もするけど」
「どうかな。もしかしたら化け物って思ってるかも……」
「そんな事ないと思うよ。……あいつは不器用だから気持ちを整理するのに時間が必要なのかもしれない」
「…………」
「俺も仲直りしたいんだけど、嫌われてる理由がわからないからどうしようもなくてさ」
怜くんが口をへの字にしながら愚痴をこぼすと、突然ある事が思い浮かんだ。
私もつい最近までは滝原くんが怜くんを嫌ってる理由に辿り着けなかった。
でも、サッカーを辞めた理由が少し見えてきたら、嫌いなのではなくて別の感情を持ち合わせているのではないかと思うように。
「怜くんは嫌われてると言うより、のびのびとサッカーをしてるから、きっと羨ましいんじゃないかな」
「えっ」
「実は滝原くん、道端で気を失っちゃうくらい重度の貧血持ちなの。そのせいでやりたい事が犠牲になったって言ってた。最近、それがサッカーだったのかなって思うようになってて……」
「あいつが重度の貧血持ち……?」
「誰にも言わないでって口止めされてた。きっと、知られたくなかったんだと思う。だから、毎日お弁当を作ったり、家までご飯を作りに行ってた。……ほら、滝原くんって一人暮らしをしてるから、栄養状態が悪くなってた。それに、私が吸血したら貧血で倒れちゃったみたいで……」
「なるほどね〜。……でもさ、そこまでは理解出来たけど、どうしてピンポイントに俺が嫌いなんだろう」
「それがわからないの。でも、それが解決出来たらまたサッカーを始めてくれるかもしれないね!」
美那がニコリと笑顔でそう言うと、怜はつい先日の事を思い出した。
俺と美那っちと澪の3人でボールを蹴り合ってる時にこっちを見てたり。
サッカーの試合をこっそり見に来たり。
足元に転がったボールを敢えて蹴り返さなかったり。
明らかにサッカーに未練がたらたらなのは、心と身体のバランスがバラバラになっているから?
本当はサッカーをしたい。
でも、体調がついていけないから自分で壁を作ってる?
そうだよ、それだ!
そこまで答えが出てきてるなら、あと一歩進めば解決するかもしれない。
怜は解決策が導かれていくと、つい嬉しくなって美那の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。
「さすが美那っち! ヒントをくれたお陰で少し答えが見えてきた。ありがとね!」
「ううん、こちらこそありがとう」
怜は美那のお陰で消化しきれなかった想いが晴れていくと、心の中に小さな決意が芽生えた。