ーー6月下旬のある日。
俺は学校から帰宅中、向こう側に渡る橋にさしかかると、肩甲骨の下まである長い髪の1人の女子生徒が20代前後の男性2人組に声をかけられている所に気付いた。



「ねぇ、今から一緒に遊びに行こうよ。おごってあげるからさ」

「お姉さんめちゃくちゃ美人だね〜。よく言われるっしょ」

「うるさい。黙ってあっち行きな」


「うわぁ、お姉さんツンデレタイプ? そこがまたかわいいっ!」

「お茶かカラオケ行こうよ! お腹いっぱい笑わせてあげるから」

「私はあんた達がいる限り笑えない」


2人「…………」



派手な服装の男達に絡まれてピシャリとあしらっているのは河合。
俺はすぐにナンパだと気づき、すかさず3人の元へ駆け寄った。



「河合、お待たせ。待った?」



彼女は俺に気付くと、髪をしならせながら横について首を横に振った。



「ううん。全然待ってないよ」

「この人達、知り合い?」夏都は男達に人差し指を向ける。


「知らない。気にしないで行こう」



彼女はそう言うと、俺と一緒に先へと足を進ませた。
男達は小さく文句を言いながら離れていくことがわかると、俺達は横目でその様子を確認した。



「もういなくなった?」

「何処かに行ったみたい」



ホッとひと息もらすと、彼女は言った。



「どうして私をかばってくれたの?」

「友達だから……」


「えっ、私が……友達?」



俺はコクンとうなずいて橋の手すりに両手をもたれかかせて、空を見上げながら言った。



「うん。……実は俺、気持ちを吐くのが苦手だった。悩みがあっても自己解決してた。それがいつしか雪だるまのように積み重なって自分の首を絞めていた事にも気付かずに……」

「……」


「そんな時、困ってる人を見かけて助けたら『ありがとう』って言われた。その『ありがとう』が何故か胸に響いて……。もしかしたら自分がこうして助けてもらいたかったんだなって気付いた。同時に待ち構えているだけじゃダメなんだってね。そう思うようになってから、誰かの助けになりたいって思うようになったから」



俺は頭の中で美那の事を思い描いていた。
最初のうちは怜への腹いせで意識してたけど、度重なるピンチを救ってるうちに自然と自分の弱点に辿り着いた。
次第に自分も救われていたんだと気付くようになってから彼女を見る目が変わった。

だから、吸血目的で近付いたと知った時は全てが白紙にされたような気分になって腹が立っていた。