ーー4時間目の国語の授業中。
滝原くんの事で頭がいっぱいでぼんやりした目のままノートを見ていると、ふとある事を思い出した。
それは、川に流されていた時に滝原くんが救出してくれた事。
あの日河合さんは肝試しに行く前に私に告げた。
『今から滝原くんの血を頂く』と。
だから、吸血を止める為に焦って追いかけた結果、足を滑らせて崖から転落した。
でも、その後に助けてくれたのは紛れもなく滝原くん。
もし河合さんに吸血されていたのなら、助けに来る元気なんてないはず。
そう考えていたら、あの日は吸血されてないのでは……と思うようになっていた。
4時間目の授業が終わって席を立ってから河合さんの元へ行き、「話がしたい」と言って屋上へ連れて行った。
屋上は風が強くてお互いの髪がはためくように揺れる。
時より顔を撫でている髪に視界が阻まれながら。
「校外学習の日、滝原くんに吸血しなかったの?」
気になる質問をストレートにぶつけた。
すると、彼女は真っ青な大空を眺めながら、手すりに腕をかけて答えた。
「どうしてそう思ったの?」
「だって……、あの日滝原くんは川に流されていた私を助けに来てくれたから。……もし河合さんに吸血されたら、滝原くんは貧血で倒れちゃうでしょ」
「……そうね。あの日は吸血しなかった。タイミングが合わなくて」
河合さんの口から真実を伝えられた瞬間、ホッとした。
しかし、彼女のヴァスピスが2点灯には変わりない。
「じゃあ、また別の日を狙うの? 残り1点灯だし」
「もちろん別の日にするわ。でも、どうしてわざわざそんな質問をするの?」
「それは……」
「吸血する日が私と被りたくないからよね」
「……うん」
「私達はヴァンパイアなんだから、人間に情なんて抱いても意味ないの。自分が苦しくなるだけ」
「えっ……」
「とにかく、また吸血する気になった日が来たら注告するわ。同じヴァンパイアの血が流れてる者同士としてね」
彼女は言いたい事を伝え終えると、肩にハラリとかかっている髪を右手で払ってから屋上扉の方へ向かって行った。
私は彼女の考えが理解出来ない。
味方なのか、敵なのかさえ……。