ーー6月上旬の学校の昼休み。
生徒たちの声が廊下まで響くくらい賑やかな教室内で澪と一緒に机の上で雑誌の星占いを見ていると……。
「ねぇ、見て見て! 美那は7月生まれでしょ?」
「うん、7月7日生まれ」
「星占いにいい結果が出てるよ」
「どれどれ……。『人生最大のモテ期! 好きな異性にはさり気なくアピールしよう。2人の異性に言い寄られる可能性も? ラッキーカラーはオレンジ』だって」
「美那はモテ期かぁ。私は『体調不良が続くかも? 運動をして気分をリフレッシュしよう。ラッキーカラーは緑』だってさ」
「ラッキーカラーって何?」
「ん〜、多分その色を身に付けてれば少しは幸運が訪れるって事かな」
「じゃあ、私はオレンジで澪は緑?」
「そそっ。ねぇねぇ、今日帰りにそのラッキーカラーのドリンクを飲んで帰らない?」
「おっ、いいねぇ〜。私がオレンジジュースで澪は青汁!」
「あっはっはっは! ねぇねぇ、どうして私が青汁なのよ〜! せめてメロンスカッシュにして!」
「あはは、そだね!」
と笑いながら返事をしてからふと外を見ると、怜くんが1人でリフティングをしていた。
先日、澪は怜くんが好きだと気持ちを打ち明けてくれた。
しかし、彼女は一歩前に出る勇気がない。
もしかしたら、長年友達関係でいる分、素直になれないのかもしれない。
だからこのチャンスを狙って少しでも接近させようと思った。
「ねぇ、怜くんが校庭でリフティングしてるから一緒に行こうよ」
「あ、ほんと? じゃあちょっと行ってみようか」
私たちは本をたたんだ後に教室を出てから校庭へ向かった。
怜くんの姿が視界に入ると、澪は大きな声で呼んだ。
「怜〜! ボール遊びに混ぜてよ」
「おっ! 仲間に入る?」
「うん、一緒に遊びたい」
「おっしゃぁあ! じゃあ、三角形になって蹴り合ってこ」
「おっけ〜い!」
「最初は美那っちに投げるからね。行っくよ〜!」
バシッ……
怜くんが私に向かってまっすぐにボールを蹴るが、私は取りきれずに校庭側に転がしていく。
「美那っちは顔は超絶可愛いんだけど、サッカーは下手くそだなぁ〜」
「余計なひと言要らないから。次、澪に投げるよ〜。行くよ〜」
「いつでも来いっ!」
ポーン……
軽い音と共に転がったボールは澪の右側を大幅に超えていく。
「やだ~! ボールが真っ直ぐに進まないんだけど」
「美那っち、ナイス変化球!」
「ドンマイ! 拾ってくるからちょっと待ってて」
転がったボールは予想以上に進んで校舎のコンクリートの上にいる人の足元に止まった。
目線を上げると、そこには滝原くんの姿が。
すると、怜くんは両手をポケットに入れたまま滝原くんに言った。
「ねぇ、そのボール蹴り返してよ」
しかし、滝原くんは無愛想なまま素通りしていく。
怜くんはその後姿を小走りで追って引き止めるように話を続けた。
「それくらい出来るっしょ。それとも、こんなボールさえ蹴り返したくないくらいサッカーに未練があるの?」
滝原くんはそれを挑発的に捉えてしまったのか、怜くんに反抗的な目を向けた。
「なに言ってんの?」
「何とも思わないならボールくらい蹴り返せるだろ。ほら、蹴り返してみろよ」
「ただ蹴り返さなかっただけで、どうして未練に?」
「夏都、いい加減にしろよ! 何度も何度もお前を心配して言ってんのに……」
「お前の心配なんて要らないし」
滝原くんはこれ以上の衝突を避けるかのように吐き捨てると、足を早めて建物の方に向かった。
怜くんは、そんな滝原くんを遠い目で見つめながら佇む。
美那「滝原くん、もしかしたらサッカー続けたかったのかなぁ」
怜「口ではああ言ってるけど、多分な」
澪「せめて辞めた原因が見つかればいいんだけどね」
三人揃って滝原くんの背中を見届けていると、私は入学当初に言っていた彼の言葉を思い出した。
『重大な病気を抱えてる訳じゃないけど、少し無理をしたり、睡眠不足の時に症状が強く出る場合があって。今日がまさにそんな感じで』
『今まで人に知られたくなくて内緒にしてきたんだ。これが原因でやりたい事が犠牲になって、我慢や辛い想いばかりして悩んでて……』
もしかして、サッカーを辞めた理由は貧血?
だとしたら、私は食事以外に何をしてあげられるのかな。
滝原くんはきっとサッカーを続けたかったんだよね。
でも、一つ疑問に思うのは、どうして怜くんに反発してるんだろう。