ーーHR終了後。
澪は教室で帰り支度を終えると私の肩をトントンと叩く。
振り返ると、澪は顔の前で両手を合わせる。
「ごめんっ! 今日バイト先が人手不足でさ〜、1時間早く行かなきゃいけなくなっちゃったんだ。急いでるから先に帰るね!」
「うん、わかった〜。バイバイ!」
「ごめんね。じゃ、また明日!」
澪はカバンをわし掴みにして走って教室を出ていく。
私は一通りの身支度が終わり、ひょいとカバンを持ち上げて教室を出て行こうとすると……。
「ねぇ、佐川さん。私達と掃除当番代わってくれない?」
背後から女子に呼び止められた。
振り返ると、そこにはクラスの女子5人組がカバンやホウキを持ったまま冷たい眼差しで横並びに立っている。
何か嫌な予感はしたが、すかさず返事をした。
「でも私、先週掃除当番やった……」
「私達急用が入っちゃってさぁ〜、今日出来ないんだわ」
「そんな……、だって私」
「じゃあお願いね。バイバ〜イ!」
反論する間もなく5人組の1人にホウキを押し付けられると、彼女たちは両サイドを通り抜けていく。
どうして私だけ。
ホウキをぎゅっと握りしめたまま嫌な気持ちに包まれていると……。
「いい気味だよ」
「クスクス……」
グチが背中から聞こえた。
思い返してみても、人に嫌われる原因は一つしか考えられない。
それは入学式の日から始まっていた。
更に、朝彼にお弁当を渡していた所が多くの人の目に触れてしまったのだろう。
ーーところが。
「ソレ……、佐川さんの仕事じゃないよ」
後ろから男性の声が耳に入った。
振り返ると、前方扉で5人組の足止めするように滝原くんが右手でガードしている。
「滝原くんには関係ない」
リーダー格の女子が少しムッとした表情で言うと……。
「関係なかったら押し付けられた所を見ぬふりをしててもいいの?」
「私達急いでてさっ」
「じゃあ佐川さんは忙しくないの? 誰かがそれを聞いたの? 佐川さんは『自分がやる』とでも言ったの?」
「……いやっ、聞いてないけど」
「1人一当番って、ルールで決まってるよね。俺も、お前らも、佐川さんも」
滝原くんは彼女達が黙った所を見計らって教室に入り、私の手からホウキを取って5人組の前に行くと、ホウキをグンっと前に押し付けた。
「じゃあ、掃除よろしくね」
5人のうちの1人がホウキを受け取ると、滝原くんは自分の席の机の横にかけているリュックをヒョイと片方に背負って教室を出て行く。
それを見た私も背中を追うように出て行った。
足が隣の教室の廊下前に差し掛かった所で呼んだ。
「滝原くんっ!」
彼は二メートル後ろの美那に振り返って足を止めると……。
「あのっ……、ありがとう!」
懸命な眼差しで感謝の言葉が伝えると、彼はフッと微笑んでから足を前に進ませた。
残された私はその場に佇んだまま彼の背中を見届けた。
胸にトクンと小さな鼓動を響かせながら……。