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「これ……。昨日約束したお弁当」



ーー翌日。
私は早めに登校して学校の下駄箱で滝原くんを待ち伏せして、到着と共にお弁当が入った袋を渡した。

人間界の食材で料理を作ったのは初めてだった。
それでも鉄分の多い食材を検索して、買い物に行って、今朝おばさんと一緒に作った。
初めてのお弁当は画像通りには作れなかったけど、心を込めて一生懸命作った。



「本当に作ってくれたの?」

「上手に作れなかったからお母さんに手伝ってもらったけどね」


「すげぇ。サンキュー」

「残さず食べてね! 絶対だよ!(じゃないと吸血出来ないから)食べ終わったらお弁当袋を渡してね」



残念な事によこしまな気持ちが善意を押し潰してる。
私はお弁当箱を手渡すと、彼は絆創膏だらけの指に目が止まった。



「指、ケガしてる。もしかしてお弁当を作る時に……」

「えっ! こ、これは……何でもない」



焦って手を後ろに隠した。
昨日は偉そうな口を叩いたから何も出来ないなんて思われたくない。

すると、その一部始終を見ていたクラスの女子3人が昇降口の奥から冷たい目線を送りながら友達同士でヒソヒソ話を始めた。



「……なに、次はお弁当を渡す作戦?」

「積極的〜! 私も同じ作戦で行こうかな」

「先がけずる~い!」



それが耳に入った瞬間、暗い顔でうつむいた。
すると、彼もそれに気付いて言った。



「人の噂なんて気にしなくていいよ」

「でも……」


「誰が何を言っても、佐川さんが俺の身体を心配して弁当を作ってくれた事に変わりないし。俺は嬉しかったよ。だから、堂々としてて」

「うん……、ありがと」



彼のこういうところに助けられる。
後ろ向きな気持ちになっても、さり気なく前を向かせてくれる。
だから、私も力になってあげたくなった。

彼が靴を履き替えてから、私達2人は一緒に階段を上がっていく。



「滝原くんは一人暮らしでしょ。だから、今度はご飯を作りに行ってもいい?」

「いいけど、どんな料理を作ってくれるの?」


「一度食べたら二度と忘れられないくらい鉄分たっぷりな料理!」

「何それ! 楽しみ〜」



入学したての頃は女子に囲まれていたり、怜くんとケンカしたりで近づき難いなって思ったけど、接する機会が増えていくうちに彼と一緒にいる事が楽しいと思えるようになっていた。

ーーところが、物事が順調に進んでいた矢先、司令部からの司令によって私と彼の間に大きな壁が立ちはだかる事になるとは、この時は思いもしなかった。