だが、月麗はイラ立ちを隠さない。舌打ちせんばかりの勢いで吐き捨てた。
「知らないわよ、私はなにも」
(気持ちはわからなくもないですけどね)
 香蘭は少しだけ彼女に同情した。彼女は芸事に長けている。この月見の宴は強すぎるライバルである明琳の上をいけるかもしれない、唯一の機会だったのだ。
 ところが、結果的には明琳ではなくライバルとも思っていなかった桃花に負けた。月麗からすれば桃花に起きたトラブルはうらやましいくらいであろう。
 歯ぎしりしたいほど悔しいところに、犯人疑惑をかけられる。腹が立つのも道理だ。

(ですが、皇后になりたいのであれば、いかにはらわたが煮えくり返っていても優美にほほ笑んでいられるよう訓練が必要ですね)
 月麗は素直すぎると、香蘭は評価をつけた。

「ですが、ただの不幸なアクシデントだとは考えられませんわ。桃花さまはそんなに迂闊な人物ではないと、わたくしは認識しておりましてよ」
 上品な口調で眉をひそめたのは明琳だ。月麗とは違い、彼女の顔には桃花に主役を奪われた恨みは表れていない。本心から感じていないのか、隠すのがうまいのか、そこは不明だが。
 月麗はキッと明琳をにらむ。
「そうかもしれないわね。でも私は犯人ではないわ。私が犯人なら……明琳さま、迷わずあなたの衣装に仕掛けますもの」
 やっぱり彼女は正直すぎる。周囲が騒然となるのもお構いなしに続けた。