対峙しているのは桃花の妹である、景柳花だ。真面目で芯の強い彼女は、迫力満点の月麗に対して一歩も引いていない。
「疑っているわけではありません。事情を知らないかと聞いているだけです」

 香蘭は近くにいた顔見知りの女官に話を聞く。
 やはり、桃花の衣装に細工をした犯人捜しが始まっているようだった。桃花本人は不幸なアクシデントと認識していたようだったが、妹の柳花はそうは思わなかった。香蘭たちと同じように誰かのいたずらを疑ったのだろう。
 柳花が桃花の衣装を確認したところ、すぐには気づかぬような巧妙さでいくつかの糸が切られていたようだ。普通に着ているだけならまず問題はない。舞を踊れば破けるかどうかは五分五分……そんな状態だったらしい。
「まるで、桃花さまの運をためすかのようで、かえって質が悪いと柳花さまはお怒りでした」
 女官は柳花の味方のようだ。
 柳花は正義感が強く、病弱な姉を守るのはいつも彼女の役目だ。今回も姉を傷つけられて黙ってはいられないと声をあげたらしい。

「姉が舞台袖で待機しているときに、次の順番であった月麗さまと月麗さまづきの女官たちは準備でいろいろと動いていたでしょう? そのときに、なにかおかしなことはなかったのかなと」
 月麗が逆上しているだけで、柳花は別に月麗を犯人と決めつけているわけではない様子だ。順を追って確認するという正しい手続きを踏んでいる。