桃花が予想外の注目を浴びてしまったせいか、メインディッシュだったはずの月麗と明琳の対決はいまいち盛りあがらないままに終わってしまった。月麗は非常に難しいとされる舞を、明琳は宮廷楽師にも劣らない腕前と評判の(そう)を披露し、どちらも甲乙つけがたい素晴らしさではあったのだが……。

 妃嬪たちの芸の披露が終わると、真の主役である白銀に輝く月がその姿を現した。月明かりのもとで、めいめいにぎやかに酒を酌み交わす。この場は無礼講がウリなので、焔幽もみなと椅子を並べる。彼を挟んで右に夏飛、左に香蘭が座っている。瑞国は伝統的に宴席では男女で別れることが多いので、こちらの卓に女性はいない。

「ピンチはチャンス。今日の主役は瑠璃妃さまでしたね」
 夏飛の言葉に香蘭もうなずく。
「ハラハラドキドキ、そしてハッピーエンド。誰もが大好きな展開ですからね」
 ヒロインが儚げで、思わず応援したくなる桃花だったことも功を奏した。別の女性だったら、あそこまでの称賛にはつながらなかったかもしれない。
「陛下のアシストも絶妙でしたね」
 香蘭は素直に彼を褒めた。もっとも焔幽なら、なんらかの手助けをするだろうとは予想していた。
 彼はたしかに冷徹だが、同時に公正な人間でもある。本人に非がないピンチならば、迷わず手を差し伸べるだろうと思った。
「それにしても衣装が破けるとは、瑠璃妃も不運……でしたね」