このあとは、双子の柳花、桃花。その次に月麗。トリを飾るのは翡翠妃、明琳だ。この順番については実はひと悶着があった。芸事に関してはナンバーワンだという自信を持っている月麗が『なぜ自分がトリでないのか?』と明琳も聞いているところで堂々文句をつけたからだ。それに対して明琳は『わたしくがトリにふさわしいことを当日、証明してみせましょう』と余裕の笑みを返した。この対決に女官たちは大盛りあがり。今日の目玉はふたりの一騎打ち。みながそれを楽しみに待っている。

 ところが、月麗の出番の前にとある事件が起きた。
 舞台上で舞うのは病弱な双子の姉、桃花。身体が弱いせいか力強さはないものの、繊細で儚げで、この世のものならざる美がその舞には宿っていた。誰もが「ほぅ」と感嘆の声を漏らし見入っている。
 しかし、最後の一節を残すのみとなったところで桃花の様子に異変が起きた。動きが小さくなり、おまけに音楽と微妙にズレている。
(どうしたのでしょう)

「おや? 具合でも悪くなったのかな」
 ひとり言のように夏飛がつぶやく。身体の弱い桃花ならありえなくもない話だが、香蘭はそうではないと気がついた。
「違います!」
 思わず声をあげてしまった。香蘭は天に向かって伸ばされている桃花の細い腕を凝視している。ここは腕をあげる振りではないはずだ。彼女は伸ばした腕でさりげなく衣装を押さえている。